目立ったのは、金庫に打ち込まれた銃弾。人に向けて放たれたものとは別に、金庫の扉に1発の銃弾の跡があった。しかし、金庫の中にあった現金約526万円は取られておらず、室内も荒らされていなかった。金銭の被害がない中で「強盗殺人事件」の捜査本部が立てられたのは、金庫にある現金を狙った強盗目的の可能性が十分に考えられたためだった。ただ、強盗目的だったとしたら、なぜ従業員3人を殺害する必要があったのか? 捜査本部は強盗をカモフラージュにした怨恨の線もあるとして、当初から動機を絞り込まず、あらゆる可能性を視野にいれた捜査が始まった。

銃弾が撃ち込まれた金庫 ©NHK

「誰も顔を見ていない」具体的な犯人情報につながらず

 警察が事件を把握したのは、発生から約50分後の午後10時8分。女性従業員と食事に行く約束をしていた男性がスーパーまで迎えに行ったが、なかなか出てこないのを不思議に思い、知人女性とともに事務所に入り、倒れている3人を発見、通報した。店に防犯カメラはあったが、録画機能はなかった。当日はスーパーから30メートルのところにあった公園で盆踊りが開催されており、多くの町民が訪れていた。“誰かが犯人を見ているかもしれない”。現場を中心に重点的に聞き込みが行われた。

 事件発生前の午後9時ごろ、不審な車両を目撃したAさん。当時、警察にも情報提供をしていた。Aさんはナンペイの南東の道路脇に「白い車が駐車していたのを見た。チェイサーだったと思う」という。運転席に一人、乗っていた男。ナンペイの方を見つめていたのが印象的で、覚えていた。「夏に窓を閉め切り、ライトを点けていなかった。肘をついて、ナンペイの事務所のほうを見ていた。誰かを待っていたのか、何かを待っていたのか、すごく怪しい感じがした」と振り返った。

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 同じころ、不審な男を目撃した別の住民もいた。「白い半袖Tシャツを着た男がスーパーの近くで立っていて、事務所のほうを見ていた。こちらに気づくと、さっと隠れたのでおかしいなと感じた。今思えば、“まずい”と思ったんでしょう」と話す。

目撃証言があった白いセダン ©NHK

 現場付近の住民に話を聞くと、パーンパーンという連続した発砲音らしき音を聞いた人が複数いたが、“祭りの太鼓か、花火の音か……。まさか拳銃の音だとは気づかず、通報は考えもしなかった”という人が多かった。警察は周辺のすべての住民に聞き込みを行い、複数の情報を得ていた。

 取材中、目撃された不審車両の関連で、当時の警察が全国で聞き込みを行っていたことをうかがわせる話を聞いた。30年前、父親が八王子ナンバーのチェイサーに乗っていた男性。男性の家族は、事件後に東北地方に引っ越ししたところ、警視庁が引っ越し先にまで話を聞かせてほしいと訪れたという。事件には全く関係のない車両だが、「警視庁はこんなところにまで来るのかと驚いた」と振り返った。