警視庁は地道な聞き込みを広げていたが、車両のナンバーを覚えていたり、顔をはっきりと見たりした人はおらず、犯人特定に至るまでの具体的な情報にはつながらなかった。

「犯人の顔を見た」という目撃者はいなかった ©NHK

現場に残された銃弾から… 

 有力な手がかりがない一方で、事件後すぐに着手されたのは、現場に残されていた銃弾の鑑定だった。

 パート女性に2発、女子高生に1発ずつ、そして金庫にも1発撃ち込まれていた、計5発の弾丸。この弾の鑑定に関わったのは当時、科学警察研究所機械第2研究室長だった内山常雄氏。内山氏は現場に遺留された弾丸や、押収された拳銃を鑑定してきた。弾であれば、何の銃を使って撃たれたものなのか、そして、過去に同じ銃を使って犯罪が行われてきていないかなどを調べる。95年は、地下鉄サリン事件が発生し、オウム真理教が所持していた多数の凶器が押収され、分析などで作業量が極端に増えていた年だった。

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凶器とみられたのはフィリピン製の拳銃だった ©NHK

 内山氏は最初に見たとき「変形が大きく、状態が悪い弾だな」と感じたという。しかしわずかに残っていた線条痕や、一度使われた弾を使って鋳造した“再生実包”、錫の含有量が多く融点の低い鉛や、薄い銅メッキの特徴などから、銃も弾もフィリピン製であるとして、“スカイヤーズビンガム”、フィリピン製の38口径の拳銃だと推定した。銃口が短く、小型で隠して持ちやすい特徴がある拳銃だった。

凶器とみられたのはフィリピン製の拳銃だった ©NHK

 このスカイヤーズビンガムは、アメリカのコルト社のディテクティブ・スペシャルの模造銃で、構造はコルトとほぼそっくりだが、本来ないはずのバレルピンが付いていることから、日本に流入し始めたころは各地で「おかしなコルトが出回っている」という報告があがっていた。その後、コルト社と同じ馬の刻印があるものの、銃身にあるコルトの文字の周辺を電解研磨していくとスカイヤーズビンガムの文字が出てきたため、科捜研(科学捜査研究所)は1986年ごろからコルトを真似た「スカイヤーズビンガム」の存在を把握していた。

事件で使われた拳銃の特徴を探るため番組ではモデルガンを製造した ©NHK

 ナンペイ事件にこのスカイヤーズビンガムが使われたということまでは分かっても、この時代に大量に流入していた「流通経路を隠すよう意図した拳銃」(内山氏)であるため、拳銃から犯人を追うのは難しいことが予想された。30年の間に、八王子事件の銃弾と似た線条痕の特徴の弾丸が複数浮上したが、いずれもつながらず、犯人特定には至らなかった。