広がっていく捜査対象者、絞れない犯人像
事件当初から、殺人の動機があるか、強盗の動機があるかなど、さまざまな見立てで、スーパーの関係者、被害者の関係者、暴力団関係者、暴走族関係者など幅広い人々を対象に調べが進められた。もし強盗を目的としていたとしたら、犯人はなぜ、スーパーに多額の現金があることを知っていたのか? どのようにして情報が伝わったのか? 警視庁は、スーパー関係者の知人の外国人女性がたびたび事務所を訪れていたことに着目したこともあった。多摩方面に住んでいた女性。しかし、事件後、母国へと帰国していて、事情を聞き取ることはできなかった。
ほかにも「八王子の事件を起こした」と自ら吹聴するフィリピン国籍の男を調べに、フィリピンへと捜査員を派遣し、本人に話を聞いたケースもあった。男は「自分はすごい人間なんだとアピールするための狂言だった」と犯行を否定し、関与はないと結論づけられていた。
また「通常の感覚では、女性3人を撃ち殺すことはできない」と、薬物乱用者の線での捜査も重点的に行われたことがあった。さまざまな人物が捜査線上にあがったが、いずれも決定打に欠けた。
時効迫る中、海外から有力情報が浮上「八王子事件のことを知っている」
事件から14年後の、2009年。当時、時効が迫る中(2010年の法改正で時効撤廃)、その前年、捜査が大きく動くきっかけとなる、ある情報が警視庁に舞い込んだ。
「八王子の事件のことを知っている」
中国で覚せい剤の密輸に関する事件で死刑を言い渡された日本人死刑囚からの情報提供だった。この日本人死刑囚は中国人数十人をメンバーに強盗団をつくり、中国へと高飛びしていた人物だった。警視庁は、時効前に少しでも事件を動かしたいと、2008年に施行された日中刑事共助条約をもとに、中国公安当局に「日本人死刑囚から話を聞きたい」と打診。調整の末、公安当局による日本人死刑囚の事情聴取に立ち会った。
果たして、日本人死刑囚はどのような内容を話すのか? ついに、捜査は進展するのか?
時効が撤廃され、ナンペイ事件の捜査が続くことが決まった2010年。
当時、捜査を指揮していた元幹部が、日本人死刑囚の証言をきっかけに始まった捜査の舞台裏を初めて明かした。
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捜査はどこまで迫り、何が壁だったのか。後編は10月11日(土)に公開する。




