「これ以上要求にこたえていると、確実に逮捕される。逃げないとまずいことになりそうだ……」
10代の頃、2年ほど半グレの仕事を手伝い、さらに闇カジノにハマって数百万円の借金を背負ってしまった野村翔吾(仮名・42歳)さん。その後、彼は人生をやり直すため「失踪」を選ぶ。彼がそこに至るまでの人生を、ライターの松本祐貴氏の新刊『ルポ失踪』(星海社)より一部抜粋してお届けする。(全3回の2回目/続きを読む)
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親にドラッグにハマったことがバレた
ドラッグで酩酊していればいつかは誰かにバレる。
「ある日、親に『車に乗れ』といわれ、警察署の前で降ろされました。『この子を捕まえてくれ』と親が警察に言って、部屋にあったものを持ってきました。その場で警察の取り調べになりました。自首した上に、持っていた薬物が、合法ドラッグと少量のマリファナだったために逮捕はされませんでした」
結果として、翔吾に残ったのは警察に告げ口をした両親への不信感だった。身内に裏切られるとは考えてもいなかった。
16歳でキャバクラのスカウトに
定時制高校の生徒は種々雑多だ。大正生まれのおじいちゃん、リストカットだらけの女の子、父親がヤクザという不良少年、スポーツ推薦で別の学校に入学したがケガで競技を諦めた青年などが翔吾と一緒に学んでいた。
昼間は暇なので、翔吾はバイトを探すことにした。近くには都内有数の繁華街がある。そこで、翔吾はまだ16歳ながらも、風俗、キャバクラなどのスカウトを仕事にすることに決めた。翔吾がスカウトを習った人物は、後に大ヒット漫画のモデルとなった。
スカウトの給料は完全歩合制だ。女性を捕まえ、キャバクラの店や風俗店に連れていき、働き始めさせることが歩合の条件となる。歩合には「買い取り」と「永久バック」がある。
ある女性を店に連れていき、働くことが決まる。この時点で「買い取り」なら数十万円を得ることができる。「永久バック」なら、その女性が働いて稼いだ額の10%程度が毎月入ってくる。
「ずっと働いてくれている女の子がいたので、僕も毎月給料をもらっていました。やり手のスカウトは永久バックでどんどん売上を伸ばします。すぐに飛んでしまいそう(辞めそう)な女の子なら、あえて買い取りにしていました」
キャバクラ、風俗などの業種は本人の希望を聞いた。風俗に抵抗があっても、おっぱいパブなら働ける女性もいる。「私、有名になって、めちゃくちゃ稼ぎたいの」とAVを志願するコもいた。
昼はスカウト、夜は夜学の高校に通う生活。翔吾はこのときに、後に失踪の原因となる某半グレ団体と知り合った。
半グレ団体に近づいたのは、バイトをしたかったからだ。最初はスカウトの仕事がうまくいかないときに「なにか手伝えることはないですか?」と聞いてみた。
すると半グレ団体から露天商の仕事を紹介された。
