東京都世田谷区の出身、裕福な家庭で育ち、名門私立中学に進学した野村翔吾(仮名・42歳)さん。しかし、進学を機に勉強への意欲を喪失。成績は下落、かろうじて高校に内部進学できたものの、教師から留年か退学の2択を突きつけられることに……。そんな彼がついには「薬物」にまで手を染めてしまった理由とは? 人生から逃げ出した人たちのその後を追った、ライターの松本祐貴氏の新刊『ルポ失踪』(星海社)より一部抜粋してお届けする。(全3回の1回目/続きを読む)
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18歳の少年はなぜ「半グレ」と関係を持ったのか?
男は逃げていた。ある半グレ団体から追われていた。闇カジノの借金もあった。
半グレとは、暴力団ではない新興の反社会的勢力のことを指す。男はある私立高校を中退し、夜間高校に転校してから半グレ組織と関係を持ってしまった。
最初はバイト感覚だったが、最終的にオレオレ詐欺の出し子をやらされそうになった。
「どこかに身を隠そう」
18歳が自分なりに出した結論は失踪だった。
名門私立中学で不良ごっこに明け暮れる
今回の主人公は現在42歳の野村翔吾(仮名)。なぜ彼は、18歳のときに追われる身になったのだろうか。
翔吾は東京都世田谷区の出身で男ばかりの3人兄弟で育った。
「長男である兄貴は親父に殴られたりしていました。兄貴は、小学生ぐらいからタバコを吸っていて、中学生になっても悪かったです。高校生ぐらいからは落ち着いたみたいです」
家は裕福だった。翔吾はすくすくと成長する。
「地元の小学校は荒れていませんでした。僕は勉強して私立の中学に行きました」
翔吾は名門の私立中学に見事合格した。近年、中学受験ブームとなっているが、試験の合格が最大の目標となり、燃え尽き症候群となる子どもが増えているという。翔吾の勉強に対する意欲は小学校で終わってしまい、中学では勉強をしなくなってしまった。
