「おばさんの家って、ヤクザだよね?」「そうだよ。でもおばさんだから、気にしないでいいよ。もしなんかあったら頼ってもいいし」
18歳で失踪した後、北関東の地方都市に身を移し、建築関係の仕事を始めた野村翔吾(仮名・42歳)さん。23歳のときには6歳年上の女性と結婚し、200万円の借金を肩代わりしてもらって、ヒモのような暮らしをしていた時期もあった。しかし、そうした穏やかな日々は長く続かなかった理由とは……? ライターの松本祐貴氏の新刊『ルポ失踪』(星海社)より一部抜粋してお届けする。(全3回の3回目/最初から読む)
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逃亡生活をしながら初めての結婚
関東の地方都市で、翔吾の逃亡生活が始まった。とはいえ、援助があるわけではない。自分で生活費を稼がなければいけない。
素性を明かせない未成年ながらも建築関係の仕事で雇ってもらえた。そこの親方は面倒見がよく、翔吾も少しずつ事情を話し始めていた。あるとき、親方が「正式に働けるように、一度筋を通しておこう」と、翔吾と両親を会わせる手はずを整えた。
翔吾は、両親と会い「元気に建築の仕事をしている」とだけ伝えた。まだ親には不信感があったので、職場や自宅の場所は教えなかった。
逃亡生活の中で、気をつけていたのは、なるべく東京都内に入らないこと、自分から知り合いに連絡を取らないこと。だんだんと暮らしにも慣れ、お店に飲みに行くことも増えた。そんな生活の中、ある女性と知り合い、付き合うことになった。
翔吾が23歳のとき、結婚が決まった。翔吾は名字を変えることに抵抗がないどころか、逃亡には都合がよかったため、妻の名字を名乗ることにした。
「今から思えば結婚相手に失礼なことばかりです。自分が仕事もなにもないときに出会ったので、最初はお金も援助してもらっていました」
6歳年上の女性で、翔吾はそれほど真剣に結婚を考えているわけではなかった。でも相手は「30歳になる前に結婚したい。ちゃんと籍を入れてほしい」と要求をしてきた。
「押し切られて結婚しました。付き合いが長かったので、情もありましたが、経済的な面で助かるとも考えました」
翔吾が抱えていた200万円近くの借金はすべて妻に払ってもらった。少しだけヒモのような生活をしていたときもある。
「家でゲームをしたり、海外ドラマを見たりしていました。奥さんが仕事に行くときに、コップに2000円ぐらいを置いていってくれるので、それでご飯を食べていました。ひどいときは、奥さんの持ち物を質屋に入れてパチンコに行ってましたね」
あるとき、妻に「そろそろ働いて」と言われて、またもや建築関係の仕事に就いた。
