母親方の親戚の正体は…
「入んな」
ダミ声が聞こえてきた。これが妻のお母さんの妹だ。ガチャガチャとなにかをかきまぜるような音がしてピタっと止まった。
「ここに座って。今、若い衆と麻雀やってるから待ってて」と命令された。沈黙の時間が流れる。麻雀が終わり、やっとおばさんと話ができた。
「私も金貸しをやったりいろいろしてるけど、シノギなんていくらでもあるからね。建築の仕事でもなんでもいいようにやりな。私はあなたたちのことを見守ってるよ」
話をした部屋には旦那の遺影と代紋が飾ってあった。その旦那こそが、この地域を仕切るヤクザの組長だったのだ。
無事にあいさつが終わった帰り道、妻に聞いた。
「おばさんの家って、ヤクザだよね?」
「そうだよ。でもおばさんだから、気にしないでいいよ。もしなんかあったら頼ってもいいし」
「オレの逃げてる理由知ってるだろ。そういう人間と付き合いたくないんだよ」
「普通に親戚付き合いだけしていればいいのよ。旦那さんが亡くなった後、組を継いでるけどもうすぐ引退して、頭に任せるから」
この土地に来たときは、人脈も金も何も持つべきものがなかった翔吾だったが、妻の父方、母方の力は、大きな味方となりそうだった。実のところ、飲酒運転ぐらいなら地元の権力者の親戚ということでもみ消すことができた。
翔吾は数年間は建築会社で働き、妻と仲良く暮らしていた。妻は旅行、ブランド物、パチンコが好きで一緒にでかけたり、ショッピングするのもいい気晴らしになった。
そんなふたりだったが、翔吾から離婚を切り出した。知り合ってから9年、結婚生活は4年ほどだった。