「足んねーな。そんなんで結婚して幸せにできるのか」

 結婚が決まったとき、言われるがまま妻の両親のところへ結婚のあいさつへ行くことになった。

 妻の実家は名家だった。父親には最初のあいさつを無視されたが、二度目にやっと話ができた。

「なんの仕事をしてるんだ?」

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「建築関係です」

「いくら稼いでる?」

「40万円ぐらいです」

 毎日仕事に出て、残業を入れて、翔吾が稼げる最大の額を答えた。

「足んねーな。そんなんで結婚して幸せにできるのか」

「がんばります」

 そう返すのが精一杯だった。結婚相手の父親は運送会社の社長だった。母はいい人で「あの人の言うことは気にしないでいいからね」と慰めてくれた。

 翔吾はその言葉に傷ついていた。金を稼ぐことが当面の目標となるほどショックを受けた。

 父親の兄は、その地方都市の不動産、旅館業、運送業などのグループ企業の会長を務めていた。そこにもあいさつ回りに行った。会長の奥さんは亡くなっていたのでその息子にもあいさつをした。さらに会長の愛人の子どもにも会った。

 地元の祭りの日、広い宴会場のど真ん中に会長が鎮座していた。周りには県や市の議員、地元の中小企業の社長など有力者が集まっている。

「翔吾も飲め」

 そういわれて酒を飲み干した。女性たちは会場でも立たされていて、男たちがマイクロバスでフィリピンパブに向かうと、やっと食事をとれていた。

 次は母親方の親戚だ。

「母の妹、私にとっておばさんのところだけあいさつに行きましょう」

 その家は黒塗りの車がたくさん停まり、物々しい雰囲気だった。