1990年代の後半から2000年代には、週刊誌や漫画雑誌を路上で売る露天がよくみられた。ダンボールに「雑誌100円」などと書き、ホームレスが駅のゴミ箱で拾ってきた雑誌を並べていた。翔吾は渋谷・新宿・池袋などの繁華街の古本露天を手伝っていた。これも地廻りのヤクザと話し合い、ショバ代(場所代)を払わなければ、商売ができない時代だった。
古本露天の次は携帯電話のブランド物ストラップを売った。ヴィトン、グッチなどがあったが、もちろんコピー商品だった。組織はストラップや海賊版CDを中国に大量発注していた。
「逃げないとまずいことになりそうだ……」
あるとき「私書箱を借りてきてくれ」と頼まれた。翔吾はなんの疑問もなく教えられた通りに私書箱を借りた。その私書箱の使用目的は、オレオレ詐欺で送られてくる現金書留の受け取り場所だった。
そのうち「銀行に行って出し子をやってくれ」と命令された。出し子とはオレオレ詐欺などの特殊詐欺で、口座からお金を引き出す役目のことだ。
「これ以上要求にこたえていると、確実に逮捕される。逃げないとまずいことになりそうだ……」
2年ほど半グレの仕事を手伝い、周囲に逮捕者も出て、翔吾はやっと気がついた。
翔吾にはもうひとつ失踪への理由があった。闇カジノのバカラにハマり、多額の借金があったのだ。六本木、渋谷、新宿……。
一晩で負けた額は大金である。
「もう麻痺しちゃってわからなくなっているんですね。負けた金額で覚えてるのは200万~300万円ですかね」
とても10代が賭ける額ではない。
18歳、翔吾は失踪を決意した。
