マンガ 『亡き者のクロニクル』(講談社)は、主人公の2人が身元不明の死者「行旅死亡人」の捜索とその人生をたどる物語。この作品を手がけるのは、ドラマ化された『僕の妻は発達障害』などでも知られるナナトエリ氏と亀山聡氏の“夫婦で執筆するコンビ”だ。「行旅死亡人」をテーマに選んだ理由や、執筆スタイルについて、著者の一人であるナナトエリ氏に伺った。

 

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「行旅死亡人」をテーマに選んだ理由

「行旅死亡人」とは、身元不明のまま亡くなった人のことを指す。『亡き者のクロニクル』では、「行旅死亡人」になるには2種類の人がいると語られる。「身内がいないために無縁になる者」と「本当は身内がいるのに名乗り出られずに無縁になる者」だ。

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「私たちは制作にあたって、官報に掲載されている『行旅死亡人』の公告記事をまとめた民間のサイトなどから、リサーチを行ってきました。公告記事には、亡くなったときの状況などが記されていますが、その人がどんな人生を送ってきたかまでは詳しくわかりません。

 想像してみると『身内がいないために無縁になる』というのは、誰の身にも起こり得ることだと思います。それに比べて、『身内がいるのに名乗り出られずに無縁になる』ということは、現代の核家族化や、人間関係の希薄さを象徴したケースではないかと感じています。

『亡き者のクロニクル』より ©ナナトエリ 亀山聡/講談社

 私自身は子供のいない夫婦なのですが、もしも夫を失うことがあれば、天涯孤独の身になりえます。実際には弟夫婦とその子供がいるのですが、私の最期をお願いできませんし(仲が悪いということではありません)、ほとんど会っていない甥っ子たちに私の遺骨を引き取ってもらいたくはないので、最後は集合墓地かな? と考えています。その流れの中で、運悪く突然死してしまったら、誰にも気づかれず行旅死亡人となります。ごく自然な流れで行旅死亡人に近い状態になることは、今の世の中でどこにでもあると思うんです」

『僕の妻は発達障害』も…“夫婦で執筆するコンビ”

 ナナトエリ氏と亀山聡氏は『僕の妻は発達障害』も手がけた“夫婦で執筆するコンビ”だ。

「夫婦で執筆するいいところは、お互いの苦手をカバーし合えるところですね。私は長時間作業や細かい作業が苦手なのですが、主人はそれが得意です。逆に、主人は打ち合わせなどで発言するのが得意ではないですが、私は人と話すことが不得意ではありません。苦労しているのは同じ仕事なので、夫婦喧嘩になると作業が止まってしまうことですね(笑)。それを避ける意味でも、作業中は一日の大半を別々の部屋で過ごしています」(ナナトエリ氏)

「夫婦で同じ仕事をしているので、話題に欠くことがない点や、相手の技術力がわかるので、自然とリスペクトの気持ちが湧く点がいいところだと思います。これは『自分にはできないなぁ』『頼りになるなぁ』と素直に思えますから。一方で、ひとつの作品が終わると、二人同時に無職になってしまうのが精神的に辛いところです。リスクヘッジが全くできていません(笑)」(亀山聡氏)

障害者としてこの社会を生きていて感じること

 そんな二人が「行旅死亡人」をテーマに選んだのは、自身の体験を重ねた部分も大きかったという。

「私自身発達障害もあり、上手く生きてこられなかったので、なんとなく死ぬ時も上手くいかない気がしています。障害者としてこの社会を生きていて感じることは、頑張っていても上手く生きられない人に(上手く生きられている人も含めて)もう少し寛容であってほしいなという、漠然とした希望です。

 もし最後に独りだったとしても、社会がそれに対して『そんなこともあるよね』と、当たり前のこととして受け入れてくれたら、今よりもう少し不安なく旅立てるのではないかと思うのです。『迷惑をかけないようにしなきゃ!』ではなく、『どんな形でもいいんだよ』というように、多様な死を自然なことだと許容する社会になってほしい」

『亡き者のクロニクル』より ©ナナトエリ 亀山聡/講談社

 2巻が10月8日に発売された『亡き者のクロニクル』新章では、戦後80年の節目に「広島編」を連載中。最新エピソードは「コミックDAYS」で読むことができる。

「『亡き者のクロニクル』は、いつか死が訪れるすべての人に届けたいです。どんな死者にも人生があり、少なからず関わりのあった人たちがいて、そして亡くなったのです。その軌跡を誰か一人でも覚えていてくれたなら、死は少し孤独ではなくなるのではないでしょうか」

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