文庫新刊『発達障害者が旅をすると世界はどう見えるのか』が話題の文学研究者・横道誠さんと、ご夫婦の共作『僕の妻は発達障害』で知られる漫画家・ナナトエリさんの初対談が実現。発達障害の当事者二人が語りあった、“世の中の見え方”。 

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横道誠さん(左)とナナトエリさん(右) 撮影・石川啓次(文藝春秋)

「何度も読み返していて、いま24回です」

横道 本日は初めての対談、よろしくお願いします。

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ナナト お声がけ頂いてとても嬉しいです。

横道 最初に私たちの接点をお伝えすると、ナナト先生の『僕の妻は発達障害』が『僕の大好きな妻!』というタイトルでドラマ化されて、主演がももいろクローバーZの百田夏菜子さんという話題性もあり、発達界隈で大変評判になっていたんですね。

 それがナナト先生のお仕事を知ったきっかけですが、その後、村中直人先生が主宰する「自閉文化を語る会」でナナト先生と直接知り合い、交流が生まれました。私は子どもの頃から、「おとなになったら学者さんになりたいです!」という『ドラゴンボール』の孫悟飯みたいな子どもだったんですけど、学者以外に憧れたいちばんの職業は漫画家なので、漫画家の知り合いが増えることにゾクゾクするような感動があります(笑)。

 そんなナナト先生が今回の文庫のもとになった単行本を読んで、すごく面白いとおっしゃってくれて。ナナト先生はそのとき「5回読んだ!」と言っていたんですが、私の中で勝手に話が盛られてしまって、「30回読んでくれた」とXで投稿してしまいました。

ナナト さすがに30回は違うと訂正しましたが、何度も読み返していて、いま24回です。

横道 本当にありがたいことです。

ナナト もうこの本が好きすぎて、横道先生のことはどこへ行っても「推し様」と呼ばせて頂いてるんですが、世界各地の街角から風が吹いてくるような臨場感がとにかく心地よく、奇妙なほど私のなかの感覚とシンクロするんですね。それは、自閉症スペクトラムの感覚世界に深く共感できるだけでなく、私が「これは一体何なんだろう」と長年もやもやと感じてきたことがクリアに言語化されているからだと思います。

 発達障害って、大人になってから診断されて自覚する人も多いですが、わかった瞬間に生まれ変わる感覚がありますよね。この本の読書体験も、自分の人生がすっと「腑に落ちた」感覚がありました。

診断されて、人生の「伏線回収」が起こる

横道 当事者は、発達障害と診断されたことで、それまでの人生の「伏線回収」が起こった、っていう表現をよく使いますよね。自分の人生で起こってきた無数の謎がさっと解けていく。そこから人生に対する新しい展望が開ける。自助グループ活動なんかは仲間同士で語りあうことで、ますます謎が解けて、人生の物語が書き変わる。いわゆるナラティブセラピー(物語療法)の効果です。そういう医学的診断や自助グループ活動のもたらす効果が私の本を読むことで起これば良いなといつも思っています。

横道誠さん

 私は40歳になってから診断されて、自助グループを多数主宰するようになるなかで、海外旅行に行きまくっていた青年時代の謎も解けそうな気がしたんです。その謎解きを今回の本でやったということになります。

 モスクワの空港で読書に熱中しすぎて飛行機に乗り遅れたとか、カイロで一人街なかを歩き回り危ない目にあいかけたとか、ASDの極度のこだわりとかADHDの不注意や衝動性から来ていたんですね。スイスでは『アルプスの少女ハイジ』の聖地巡礼をやりましたが、山登りがきついのに、いつも通りに、ずっとくるぶしをコキコキ回しながら歩いていた。自閉スペクトラム症のこだわり行動です。