海外の街角で様々な文学作品と紐づいて…
ナナト エジプトで胡散臭い案内人と不思議な会話をするシーンとか、奇妙なマリアージュで大好きですね。あと、さんざんゲテモノを食べてきて平気だったのに、サバサンドでは1週間寝込んだのには笑ってしまって。
横道 子どもの頃は、寿司といえばバッテラしか食べないくらいサバ好きでしたが、サバがパンに挟まると、私には「ゲロまず」に感じられて(笑)。まあそれはともかく、過去の自分を現在の視点からスキャニングしてみたら、旅のなかで起きる脳内多動――マインドワンダリングもなかなか興味深いなと思って書き始めたんです。
海外の街角でも想像力があちこちに飛んで様々な文学作品と紐づいたりするから、雪の舞うベルリンでハン・ガンの『すべての、白いものたちの』が出てきたり、カサブランカでムーミン谷の吹雪の世界が重なったりする。なぜ繋がっているのか、私なりに根拠はあるんですが、あえて明示しない箇所も多いので、不思議な読み味を生んでいると思います。
ナナト それ、編集者さん的にはOKだったんですか?
横道 最初は突っ込まれたんですが、しばらくしたら諦めてくれて(笑)。結果、発達障害×旅という本書は、かなり特異な本に仕上がりました。私は昔からニッチ産業という考え方が好きで、大儲けはできないけれどコアな需要がある領域で勝負していこうと思ってきたんです。で、お聞きしたいのですが、ナナト先生は旅はお好きでしょうか?
東京の電車のあまりの臭さにビックリしました
ナナト 滅多に旅はしないですね。発達障害の特性のひとつ「同一性保持」で、同じ場所にいたいという気持ちがとても強い人間なので。基本、家の半径数メートルからは外に出ないんですよ。その昔、家族に連れられてアメリカに住んでいた時期があるのですが、私にとっては大変でしたね。
場所を移動するってけっこうストレスで、とくに体調が悪いと感覚過敏がひどくなるんです。高い音が過敏に聞こえてくるようになると、ああ今ストレスを感じているな、と。
横道 私もこの本で、ニューヨークではモダンジャズのような音の洪水に襲われる感覚があったことを書きました。発達障害者にはしばしば聴覚情報処理障害が付随するので、定型発達者に比べると、音に対して過敏だったり、逆に鈍感だったりという印象があります。
私は五感が全体に鋭いんですけど、ナナト先生もそんな感じですか?
ナナト 視覚は大丈夫なんですけど、嗅覚がかなり過敏で……。もともと北海道の田舎に住んでいたので、東京に出てきたときあまりの電車の臭さにビックリしました。都会の電車ってこんなにも臭いんだ!と。
横道 アハハハ……、私は蓄膿気味なので、本来は過敏であろう嗅覚が逆に鈍感になってしまってます。視覚はだいぶ過敏で、子どものころ集合写真をとると、いつも自分だけ目をつぶってるんですよ。みんながこのくらいならOKと判断して撮影するわけですが、私には明るすぎてまぶしく感じられていたという。
触覚の過敏もよく話題になりますね。自閉スペクトラム症の子がハグを嫌がったりして。
ナナト ハグは嫌です。結婚していてなんですけど。

