何度も開いたり、閉じたりすると、壊れるんじゃないかという心配が産業界から寄せられますが、そんなことはありません。実際、実験したところ、出し入れを64万回やっても、ほとんど吸着と放出の性能は落ちませんでした。64万回といえば、従来の分離装置で7年間の稼働に相当します。しかも、分離のエネルギーもコストも従来より大きく下げられる。私がいちばん気に入っている仕事です」

日本が資源大国に

 特定の気体を狙い通りに分離する技術を発展させれば、空中から資源を取り出すことも可能になるという。北川の描く未来像は壮大だ。

日本が資源大国になる可能性を北川氏が語った ©GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

「植物は35億年前から太陽光を使って空気中の元素を化合物に自在に変え、生命活動を続けてきました。我々の身の回りには窒素、酸素、水素といった資源が無尽蔵にあり、空気と水がこれらの供給源ですから、いくらでも取ってこれるのです。人間も空気中から資源を取り出せるはず。

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 実際、20世紀の初め、ドイツの化学者フリッツ・ハーバーは空気中の窒素をアンモニアに変える方法を見つけました。その基礎技術を応用して、BASFのカール・ボッシュが、アンモニアの量産を可能にした。これが空中窒素固定の技術です。今、地球上に70億人を超す人類が生きていけるのも、ハーバー・ボッシュ法で作られた窒素肥料のおかげといってもいいくらいです」

 こういって北川教授が筆者に見せてくれたのが、ある論文からとった木の年輪の写真だ。25年間放置した後、10年間、窒素肥料を与えた木を輪切りにしてみると、最初の25年の年輪の幅に対して、後の10年の年輪の幅は何倍も広く、窒素肥料がいかに生長にとって重要か一目瞭然だった。

「これから必要なのは、空中炭素固定の技術でしょう。これまでは主に地下資源の石油、石炭、天然ガスをエネルギー源として使ってきました。しかし、石油はいずれ枯渇するといわれている。そこで、アメリカの化学者ジョージ・オラーさんはメタノール・エコノミーを提唱しています」

 メタノール・エコノミーの材料として必要なのは、二酸化炭素と水だ。

この続きでは、日本が「資源大国」となる可能性を北川氏が語っています》

※本記事の全文(約5700字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(緑慎也「空気から資源を取り出せ 京都大学特別教授・北川進」)。

 

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