今年のノーベル生理学・医学賞に、大阪大学免疫学フロンティア研究センターの坂口志文特任教授が選ばれた。「アレルギーの常識を変えた」と言われる坂口特任教授の発見は、いまや“国民病”ともいわれる花粉症に画期的治療法をもたらした。坂口氏が自身の研究成果を解説する。

◆◆◆

なぜ「花粉症」が急増?

 花粉症は1980年代から急激に増え、いまでは日本人のおよそ4人に1人が発症するといわれます。日本と同様に、他の先進国もこの数十年でアレルギー患者は急増しました。これは社会が衛生的になり、雑菌などに触れる機会が減ったせいともいわれますが、その「衛生仮説」も、「Tレグ(制御性T細胞)」と呼ばれる免疫細胞の発見により、よりクリアに説明できるようになりました。

 では、Tレグがこれまでの考え方をどう変えたのか、アレルギーとの関係について簡単に解説しておきましょう。

ADVERTISEMENT

ノーベル生理学・医学賞の受賞が決まり、記者会見会場に向かう大阪大の坂口志文特任教授 ©時事通信社

 免疫細胞は、よく軍隊に喩えられるように「パトロール隊」「司令官」、そして攻撃の「実働部隊」などの役割を持っています。例えば傷口から細菌が侵入すると、血管やリンパ腺にいる「パトロール隊」が捕らえ、「司令官」のT細胞に「こんな異物が侵入しました」と報告します。そのときT細胞が有害だと判断すれば、「実働部隊」に攻撃命令を出します。

 しかし、スギ花粉など有害でない異物まで「実働部隊」が誤って攻撃してしまうのがアレルギー反応です。花粉症だけでなく、自己免疫疾患と呼ばれる病気も、ほぼ同じ原因で起こります。例えば1型糖尿病や膠原病、安倍首相も罹った炎症性腸炎はその一つです。

炎症性腸炎(潰瘍性腸炎)に罹った安倍晋三首相(当時)は、第一次安倍政権の退陣表明後に緊急入院 ©JMPA

 なぜ、誤って有害でない物質まで免疫細胞が攻撃してしまうのか。