「生活者」と見る視点

 外国人を単に「労働者」と見る従来の外国人受け入れ政策には、とくに「生活者」として見る視点が欠けていました。別の言い方をすれば、「長期間、日本で生活する者」と捉える視点が欠けていたのです。しかし「雇用の場」だけが恩恵を受けながら、「生活の場」としての地域でさまざまな摩擦が生じ、地域住民や自治体に過度な負担がかかる事態は放置できません。外国人との共存には、「生活者」として地域で真に共生する「社会統合」が不可欠です。その点、「社会統合」に失敗した欧州諸国の経験が我々にとって貴重な先例、失敗例としてあります。そこから多くを学ばねばなりません。

 私自身、法相就任前から、一政治家として、いずれ日本でも大きな問題になる可能性が高いと、外国人受け入れ政策に関心を寄せていました。というのも、G7諸国で、移民の大量流入が社会の分断のきっかけとなり、政治を大きく揺るがす事態になっていたからです。

ロンドンで極右活動家が呼びかけた反移民デモ ⒸEPA=時事

 この10年、20年単位で見た場合、外国人問題は各国政治の主要問題であり続け、これがきっかけで政権が倒れたり、反移民政党が台頭したりしてきました。こうした欧米諸国の混乱を見ながら、いずれ我々にとっても他人事ではなくなると危惧するようになったのです。

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 今から振り返ると、日本で外国人問題が大きな注目を集めるようになり、それまでと局面が変わったと感じた一つのきっかけは、2023年7月の川口市の病院での騒動だったと思います。そもそもはトルコ国籍の外国人同士の諍いが引き金になったようですが、約100人が病院周辺に殺到して、埼玉県警機動隊が出動する騒ぎとなった。この騒動やこの騒動に対するメディアやSNSの反応を見ていて、これはかなり深刻な状況だと危機感をもちました。

 その後、2024年11月に法務大臣に就任したわけですが、法務省は、出入国在留管理庁を通じて外国人の受け入れ業務を所管している。ですから川口市の現場も、就任直後に同僚議員に視察をお願いしました。現場で何が起きていて、何が問題になっているかを把握することが何よりも大事だからです。

 私は外国人の受け入れすべてに反対ではありませんが、国民の安全・安心が失われないことが絶対条件です。

 製造業、サービス業など、すでに多くの産業で外国人労働者が働いていて、日本社会と日本経済は外国人なしに維持できない状況とも言えます。また、強い日本を実現するためにも、米国では上位500社の半数以上が外国出身者の手で創業されているように、日本も、社会と経済の発展に寄与する外国人に開かれた国であるべきだと考えます。日本経済の潜在力を維持するには、島国である以上、良質なヒト・モノ・カネを海外から惹きつけることが不可欠ですが、国民の安全・安心は大前提です。今回の「論点整理」のサブタイトルに、「活力ある強い日本の実現」とともに「国民の安全・安心の死守」を掲げたのはそのためです。

 ただし、外国人の受け入れにあたっては、そのスピードとペースの調整が最も重要です。今回の「論点整理」で「量的マネジメント」に言及したのはそのためです。

※この記事の全文は「文藝春秋」11月号(10月10日発売)と、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されている。

文藝春秋

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法務大臣の提言「外国人政策に日本独自モデルを」
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