働き手不足が深刻化する日本において、外国人労働者の受け入れは重要な課題として議論が重ねられてきた。そんななか、これまで日本での労働を希望していた東南アジア出身外国人労働者のなかで、韓国での雇用を目指す人が増加しているという。
彼らはなぜ日本ではなく、韓国で働きたいと考えるのか。ノンフィクション作家の菅野朋子氏による『韓国消滅の危機』の一部を抜粋して紹介する。(全2回の2回目/はじめから読む)
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日本は選ばれなかった
ネパールから来たアニル(38歳、仮名)は、EPS(雇用許可制度。韓国の外国人労働者の雇用制度)を利用して韓国の養豚場で働いている。
どうして韓国を選んだのか、そんなことを訊いていると、事務所のドアの前を3人の外国人が通り過ぎた。彼の雇用主である李成俊(イ・ソンジュン)(62歳、仮名)が説明してくれる。
「近くの養豚場で働いているインドネシアから来た就業者たちです。お昼を食べて戻ってきたんじゃないかな」
アニルを取材したのは、ソウルから車で2時間ほど南に下った京畿道内。養豚業を営む李成俊の事務所だった。周辺には養豚場や牛舎が散在する。李は2000頭の豚の飼育をしており、アニルはその補助として働いている。
彼が韓国に来たのは2022年11月、コロナ禍が終わろうとしている頃だった。李は、ネパール出身者の評判がいいと耳にしており、また、書類に貼り付けられた写真のアニルが、友人の誰かにいそうな顔立ちだったことで、親しみを持ったという。ネパールはヒンズー教徒が80%を占めるが、アニルは数少ないモンゴル系で、仏教徒だと教えてくれた。ネパールには両親と姉、弟が暮らしている。
地元の大学に通っていたが、授業料が支払えなくなり、中退したそうだ。
「卒業してからしばらくは父と一緒に農業をしていました。カルダモン(香辛料)栽培です。でも、あまり稼げませんから、友人に誘われてドバイに行きました」
14年から4年間ほど、ドバイにあるお茶の会社でメッセンジャーボーイとして働いた。その後、ネパールに戻ったが、当時、人気の働き先になっていたのが韓国だったという。
「韓国はネパール人がいちばん働きたいところです。先進国だし、給料もよく、何か学べるチャンスがあると思っている。それにEPSがとてもよい」