日本は選択肢に入らなかったのか?
養豚業を選択したのは、将来の職業として考えていたからだという。日本は選択肢に入らなかったのかと聞くと、申し訳なさそうな表情をしながら、外国人労働者と日本人の賃金が別になっているから選択しなかったという。韓国では外国人労働者にも最低賃金が適用されており、アニルの現在の給料は月220万ウォンほど。円に換算すると約23万円だ。これはネパールでは首都カトマンズにいる高所得の医師やエンジニアの報酬に当たるという。
日本も20年4月以降、外国人労働者に対し、最低賃金を保障している。韓国の最低賃金は、25年に全国一律9860ウォン(約1000円)から1万30ウォン(約1075円)に引き上げられた。日本の場合は、24年10月に最低賃金が引き上げられ、平均1055円となっており、現在の為替相場で換算すると日本のほうが高い。しかし、日本の場合は県によって最低賃金に差があるため、働く地域によって外国人労働者の手取りも変わってくる。さらに、韓国の場合は週15時間以上働いた就労者には週休手当が出るため、これを加味すると、時給は平均1万1932ウォン(約1279円)ほどになるといわれる。日本の平均最低賃金よりも220円ほど高くなる。
8割は母国への仕送りに
EPSのどんな点がよいのだろう。
「EPSは(民間業者が仲介から排除された)国と国の契約システムだから、まず安心できます。日本の場合は、日本に行って初めてどんな仕事なのか、給料などの詳しいことが分かる。給料は韓国よりも安いし、家賃や電気代も自分が払うと聞きました。だから、貯蓄ができないって、日本に行ったネパール人が話していました」
李が話を接ぐ。
「だから、韓国では雇用主の負担も結構あります。
まず、外国人労働者が住む部屋を用意しなければなりません。部屋に消火器があるかないか、女性の場合は鍵がかかるかどうか、当局に写真を送ります。その後、実際に担当者がチェックするためにやって来ます。そもそも、外国人労働者を雇いたいと申請する時に居住場所の写真は添付することが義務づけられています。
あとは、食料では、米は雇用主が支給します。それ以外はアニルが自分で用意しています」
アニルはほとんど自炊するという。スーパーで肉を買ってきて焼くことが多いそうだ。辛いのは苦手なので、ドラマで知った「辛(シン)ラーメン」は辛くて食べられないと笑っていた。ただ、キムチは甘みがあるものは時々口にする。食費と携帯電話利用料、時々買う服などの雑費を除き、給料の80%は母国にいる父親に送金しているという。休みの日はいつもより遅くに起きて、部屋を掃除し、ネパールにいる友だちとオンラインで話すのが楽しみだ。ソウル市内に出かけることはほとんどない。
