日本を上回るスピードで超高齢社会に突入した韓国では、乳幼児の多くが教育競争にさらされている。2歳児24.6%、3歳児50.3%、5歳児にいたっては81.2%が学習塾に通塾。いったいなぜこれほどまでに競争が苛烈になったのだろうか。日本にもそんな未来が待っているのだろうか。
ここでは、菅野朋子氏の著書『韓国消滅の危機』(角川新書)を抜粋。韓国事情に明るい筆者が詳らかにする、隣国の“教育の実情”を紹介する。(全2回の1回目/続きを読む)
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乳幼児の時から競争は始まっている
競争社会と言われる韓国で今進んでいるのが、競争の「低年齢化」だ。
韓国では、学校は友だちとコミュニケーションをとり、社会性を身につける場所であり、勉強は学習塾で、という考え方が強い。
2025年3月、教育省は、小学生・中学生・高校生の学校以外の学習塾について調査した『2024年 小中高私教育調査結果』を発表した。これによると、小・中・高の学習塾(私教育)の市場は、学生数が前年より約8万人減少したにもかかわらず史上最大の29兆2000億ウォン(約3兆1080億円)で、入塾率は80%にも上った。小学生がもっとも高い87.7%で、中学生は78.0%、高校生は67.3%となっている。低学年の子どもたちの入塾率が高いのは、多様な選択肢が開かれたこの年代が「鉄は熱いうちに打て」とばかりに、塾へと送り込まれていることや、親が共働きのため、親が家に戻るまで塾をはしごさせるケースが広がっていることもある。
さらに、ここ数年は乳幼児の学習塾熱が高まっている。
『小中高私教育調査結果』の発表と同じ時期、教育省は初めて『2024年 乳幼児私教育パイロット調査結果』を発表したが、その結果は驚愕するものだった。調査対象となった6歳以下の乳幼児1万3241人のうち、学習塾へ通っている幼児は47.6%に上り、年齢別では、2歳児24.6%、3歳児50.3%、5歳児にいたっては81.2%が学習塾に通っていることが分かった。
1人あたりの塾の費用は月平均33万2000ウォン(約3万5500円)。中には、幼い子どもがこんな長い時間に耐えられるのだろうかと思われる3時間以上のレッスンをほどこすエリート育成を目指した塾もある。その場合、英語塾の月の平均費用は154万5000ウォン(約16万5400円)で、ノリ学校は116万7000ウォン(約12万4900円)、芸能塾は78万3000ウォン(約8万3000円)、スポーツ塾は76万7000ウォン(約8万2100円)だった。
ノリは韓国語で「遊び」を意味する。ノリ学校は、英語、料理、工作、ダンス、水泳など様々な体験を通して学ぶ「体験型のオリニチプ(保育施設)」だ。
塾の選択肢は家庭の所得によって大きく異なっており、月の所得が300万ウォン(約32万円)未満の家庭の子どもの入塾率は29.5%で塾費の月平均は4万8000ウォン(約5100円)。一方、800万ウォン(約85万円)以上の家庭になると62.4%が学習塾に通い、月平均32万2000ウォン(約3万4000円)を塾の費用に充てており、約6.7倍もの差があった。
教育省は、この調査はあくまでも3か月の期間で行った試験的なものだとして、解釈には留意を促していた。しかし、「これが現実だ」とする声が上がる。
