「これはただ事ではない…」

 ソウル市内にあるオリニチプの金園長によれば、こうした乳幼児向けの学習塾が、従来型のオリニチプからも人気を奪っているという。最近、園長の集まりでよく耳にするのが途中退園だそうだ。金園長のオリニチプでも2年続けて4人ほどが退所した。

「うちは2歳までですから、3歳になってから幼稚園や別のオリニチプに移るのが普通のコースでした。それが、途中で退園する児童が出てきて、これはただ事ではない、いよいよ(オリニチプの危機が)始まったかと思っています」

 退園した1人は英語幼稚園、1人はノリ学校(料理、ダンス、工作など様々な体験を提供するオリニチプ)に転園していったという。金園長は言う。

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「Z世代が親になって、子どもにさせたいことも変わってきましたね。トレンドはその時によって変わりますが、今は英語幼稚園に通わせたいという希望が強いようです。うちでも音楽やスポーツは特別活動として行っていましたが、昨年から英語の特別活動も始めました。英語の教師を派遣してもらって、遊びながら英語に触れるものですが、反応がよかった。今年もやってほしいという声が保護者から上がっていて、アンケートをとって続けていくかどうかを決める予定です」

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 無論、このように充実したプログラムを子に体験させることができるのは、比較的高所得で教育熱心な親たちだけだ。昔のように「小川から龍(置かれた環境が恵まれていなくとも偉業を成し遂げるという意)」はもうあり得ない、金園長はそう語った。

4歳考試、7歳考試

『乳幼児私教育パイロット調査結果』が発表された後、韓国メディアがさかんに書き立てたのが、「4歳考試、7歳考試現象」だった。「考試」は国家試験を指し、特に司法・行政・外交の国家公務員試験は難関とされる。それになぞらえた「4歳考試」は、4歳で名高い英語幼稚園に入園するため、レベルテストを受けることを指す。その準備は2歳頃から始まるというから猛烈だ。

 ソウル市内でも有名な学習塾が並ぶ大峙洞(テチドン)では、母親が小さなスーツケースと幼い子どもの手を引く姿が見られる。江南三区(松坡区、江南区、瑞草区)のひとつにあり、富裕層が住む地域として知られる。

 2025年2月には韓国で人気の女性コメディアン、イ・スジが、教育に熱を上げる大峙洞オンマ(母親)の特徴をパロディ化し、一躍、話題をさらった。彼女たちを象徴するのは、高級車、モンクレールのダウンジャケット、子どもへの過剰なまでの丁寧語。こうした特徴的なアイコンをからかったYouTube動画が話題になると、大峙洞からモンクレールを着た人がいなくなったとまでいわれ、これもまたニュースになった。