うつ病になる子どもが激増している

 幼い頃から塾に通い、「考試」を受け続けることで、子どもたちに不安症やうつ病が見られるというデータも出ている(ソウル市教育庁教育情報院発表、2025年5月)。9歳以下の子どもたちのうつ病への健康保険請求件数は2020~23年で全国で2倍増加したが、江南三区では3倍に増えたという。

 それでも、「よその子がやっていると自分たちの子どもも塾に行かせないと後れてしまうのではないかと思ってしまいますから」と前出の金園長は話す。

 暗記式、詰め込み型の教育に警鐘を鳴らす声も出ているが、歯止めがかかる気配はない。

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 65年間子どもの教育に関わってきた金明子(キム・ミョンジャ)「セッビョル幼稚園」前園長(92歳)は、落胆を隠さない。

 金明子前園長は、スイスの教育学者ジャン・ピアジェが提唱した「子どもたちが自ら考える知恵を身につけさせる」教育法に共感し、幼稚園で実践してきた。20年間ほど小学校の教師をした後、1980年に幼稚園を設立。きっかけは小学校での経験だったと話す。

「小学1年生を教えていた時に、子どもたちの発達が、特に算数で乖離がありました。この原因は何だろうと思い調べてみると入学前に身につけるべき基礎を学んでいなかった。基礎がないので、2年生に上がっても問題が解けないんですね。子どもたちには小学校に入る前の基礎教育が大事だと痛感し、小学校教師を20年間やった後、思い切って幼稚園を作りました」

 小学1年生にして、はきはきと受け答えをするセッビョル幼稚園出身の子どもが噂になり、児童数はあっという間に300人を超えた。送迎バスも運営し、遠方からも児童が通うようになったという。90年代から2000年代初めの話だ。

「近くに新興都市もできて、そちらにも分校を作りました。本当の意味で教育熱心な時代でしたね。暗記する勉強は無用の長物です。インターネットが登場した今、知識はすべて検索して得られます。2歳までは語感を育ててあげて、認知発達が始まる3歳からは自ら考える力を伸ばしてあげるような教育をしなければいけない。それなのに詰め込んでいる。

 今は子どもの数が少ないですから、その分投資も集中してしまうのでしょう。ただの教育競争に明け暮れています」

 そうはいっても、乳幼児を学習塾に通わせる保護者が47.6%に上るというのが韓国の現実だ。先にあげた教育省の報告書をもとに、単純に計算すると3か月間の乳幼児の教育市場は8000億ウォン(約850億円)ほどの規模になる(「聯合ニュース」2025年3月13日)。

次の記事に続く 「目標を韓国に替えたのは家族からの説得でした」東南アジア出身の外国人労働者が“日本”ではなく“韓国”で働きたがる納得の事情