こうしてみんなは、各自が待ち合わせて集団登校するように、いつの間にかなっていたのである。そして下校時も、できるかぎり待ち合わせをして、なるべく大勢で行動するようにしていた。
“熊だっ”声も出ないほど驚いた高橋のおじさんは…
その日、学校から戻った私に、父が話してくれた事の顚末は、次のようなものであった。
――朝、馬小屋の方から聞こえてきた異様な物音で目を覚ました高橋のおばさんは、ヒーッと苦しげにうめく馬の声と、ガタガタンと板壁を蹴るような激しい音を耳にした。間をおかず、また妙な馬の声らしい音が聞こえ、ガタンと板壁が鳴った。
「とうちゃんよ、なんだか馬が変な声を出してないているよ。早く起きて行ってみたら」
「うん、わかった。もう外は明るくなってきたか」
「そうだよ、もうそろそろ起きてもいい頃だよ」
「そうか。よし、起きて行ってみるか」
起き上がったおじさんが、大きなあくびをしながら身仕度を始めたとき、またもやガタンと音がして、ヒーッと、咽からしぼり出すような苦しげな声がした。
表に出たおじさんは、ひと目馬小屋を見てびっくりした。馬小屋の入口に立ちふさがった真っ黒くてでっかいものが、馬栓棒の上から体を乗り入れて、中にいる馬を押えつけているようなのである。
“熊だっ”声も出ないほど驚いたおじさんは、家の中に飛び込むや、
「熊だっ、啓子、早く事務所に行って、親父さんに鉄砲持ってきてもらえ」
と言った。啓子は裏口から抜け出して200メートルあまりを夢中で走った。
おじさんたちは窓辺に寄って馬小屋を窺った。小屋の中が暗いうえ、入口の熊が邪魔をして、様子は解らなかったが、ヒーッと鳴く声や、時おり後足で板壁を蹴る、ガタンという音で、馬がかなり苦しんでいるものと判断された。
“これでは馬が殺されてしまう”と思ったおじさんは、意を決して立ち上がると、地下足袋を履き、庭の片隅に立てかけてあった受掘り用の鉞(まさかり)を手に、表へ出た。
