私なりにやさしく説明すれば、逆境にある者が自分の存在を現実を越えたりっぱなものに伸し上げようとして示す毅然たる心理、それがユーモアなのだ、ということらしい。

おわかりだろうか。日本の俚諺(りげん)にも“引かれ者の小唄”があって、これは負け惜しみの強がりのことだろうが、黒いユーモアととることができるのかもしれない。「俺は平気なんだ」と歌なんか唄って。

ユーモアは、ガキにはわかるまい

いろいろ御託を並べたが、要はユーモアがひどく複雑で微妙な心理に由来するものであり、軽々にはつかめない。幼少年にはわかりにくい。

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子どもは「おそば屋さんには動物が3匹いるんだね、きつね、たぬき、それから大ざる」なんてユーモアを示すことはできても、それをユーモアと感ずるのは大人のほうだ。

端的に言おう、つまりユーモアは世間を知り、人間を知り、知識をえて初めて近づきうるものであり、年齢を重ねてわかる代物なのだ。

多事多難、まっすぐには進まない、おもしろくも悲しい人生の中にヒョイと現れるささやかな笑い、抵抗、あきらめ、などなどから生ずる微妙なものなのだ。だから、

──老いてこそユーモア──

と私は信ずる。今さらまっとうなことばかり考えていても仕方がない。

「仕方がない」は老人の友

私はこのごろ、“仕方がない”と思い、このエッセイでもしばしばそう綴っているけれど、“仕方がない”は老人の友であり、ユーモアと仲よしなのだ。

「あれも仕方がない、これも仕方がない」。でもなんとかそこそこに生きて御飯を食べ、笑ったり悲しんだり、

──人生ってそんなもの──

そう納得したときユーモアはしたり顔でチョロリと現れて少し頰笑ませ、少し癒してくれるのだ。もうあまり頑張ること、ないんですよね、本当は。あと少しユーモアを抱いて……。

阿刀田 高(あとうだ・たかし)
作家
1935年、東京生まれ。早稲田大学文学部卒。国立国会図書館に勤務しながら執筆活動を続け、1978年『冷蔵庫より愛をこめて』で小説家デビュー。1979年『ナポレオン狂』で直木賞、1995年『新トロイア物語』で吉川英治文学賞を受賞。2018年には文化功労者に選出された。短編小説の名手として知られ、900編以上を発表するほか、『ギリシア神話を知っていますか』をはじめとする古典ダイジェストシリーズにもファンが多い。
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