2002年の小泉訪朝から10年あまり経った2013年5月。日本は北朝鮮と非公式の会談を行っていた。目的は、拉致問題の根本解決に向けた直談判だった。日本政府の代表として北朝鮮を訪問したのは、飯島勲内閣官房参与(当時)だ。
飯島氏が「文藝春秋」(2023年10月号)に寄稿した「横田めぐみさん奪還交渉記録」より、2013年5月15日、平壌で行われた会談記録の一部を紹介する。
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「横田めぐみは死亡して、拉致は解決したとして論拠を挙げてきた」宋日昊(朝日国交正常化交渉大使)
日時:2013年5月15日(水)
午前9時〜11時45分
会場:平壌百花園招待所 会談室
先方同席者:金哲虎外務省副局長
ホ・ソンチョル外務省第四局部員
ケ・スンフン対外文化連絡協会部員(通訳)
(宋大使)先ずは、飯島先生が、崇高な使命によって平壌を訪問されたことを歓迎する。
(飯島参与)感謝する。
(宋大使)小泉総理の第1回、第2回の訪朝に同行され、朝日関係に常に関心を持って取り組み、本日もこのような道を来られたことを嬉しく思う。
変化する国際情勢、北東アジア情勢、特に朝日関係を見るとき、両国民族のみならず、地域の平和と安定に寄与する必要のあることを感じる。今回の先生の訪朝が、朝日関係の改善、特に前向きな改善への契機になると信じたい。
(飯島参与)感謝する。
(宋大使)先ず先生からおっしゃることがあれば伺いたい。
(飯島参与)ご無礼もあるかもしれないが、本音で率直にお話ししたい。共和国に対する各国との関係や国際情勢には、想像を絶するものがあり、いても立ってもいられない思いで訪朝した。各国とも共和国との関係がうまくいかない。そういう中で、むしろ利益を得られる人もいる。大使も言われたように、各国との関係が良くなることは、国民にとっても、各国との関係においても重要なことである。そのために、あらゆる問題について、心と心で対話し、解決する必要があると考える。
問題点や疑問点を挙げて、それについて質問するだけであれば、私がわざわざ訪朝する必要はない。小泉訪朝以来、大変に信用している許宗萬(ホジョンマン)[朝鮮]総連議長を通じて、共和国側の考えや立場を聞けばよく、平壌までくる必要はない。金正日委員長が信頼された[小泉総理訪朝]当時の許宗萬責任副議長に接して、私は敬意と信頼を置くようになった。そこで、まず今回なぜ平壌を訪問したか説明したい。
今の日朝関係がうまくいかない状態についてである。私が小泉総理について訪朝してから10年以上が経った。2002年以降2回、最高指導者金正日国防委員長との間で会談があり、日朝問題に関する「平壌宣言」もできたことに誇りを持っている。一方、その道半ばで国防委員長が他界されたことには、胸が痛む。現在日本では、拉致問題、並びに総連会館等を巡り、最悪の状況にある。

