「ピークを作らない」ヒット哲学
長戸氏はヒットの作り方についても語った。その考え方は「ピークを作らない」。逆説的に聞こえるが、田崎氏が説明する。「一発屋といわれるように、急に売れすぎるとその後が続かない例がありますよね。長戸さんはそれを避けるために、売れすぎるとすぐに次のシングル出して、消しに行くそうです」。
この手法により、B'zのように息の長いアーティストが生まれているという。
B'zの名前の由来にも言及があった。当初、2文字だと商標登録の必要がなくお金がかからないということで、「アルファベットの最初と最後でAとZにしよう」と「AZ(エーズ)」に決めた。しかし、その名前は目薬の名称と被っていたため「じゃあBにしよう」とB’zになったという。「適当なんですよね」と田崎氏は笑う。
長戸氏から学んだこととして、田崎氏は「一生懸命真面目にやりすぎると、面白くなくなって失敗するそうです。だからどこかに軽い洒落の部分を残しておかないとダメということなんだと思います」と語った。
甲子園を沸かせる名曲も作曲
長戸氏の音楽の才能が窺えるエピソードも。今でも甲子園で流れる「ポパイ・ザ・セーラーマン」は長戸氏の作曲だ。
「ディスコが流行っていたころ、長戸さんは行ったことがなかった。レコード屋に行き、ディスコで何が流行ってんの? と尋ねて買った3枚を聞いて、コードをつなげて作ったのがこの曲だそうです」。長戸氏は田崎氏の目の前でギターを弾き、実演してみせたという。
40年間沈黙を守ってきた音楽界の重鎮が語った哲学は、ヒットを生み出すための冷静な計算と、どこか軽やかな洒落っ気が共存する独特なものだった。これらの証言は、業界の歴史を知る上で貴重なものとなるだろう。
