年間3万人を診察する総合診療医の伊藤大介さんは、「健康診断こそが深刻な病気の『芽』を摘むことができる唯一の方法です」と強調する。
そんな伊藤さんが初の単著『総合診療医が徹底解読 健康診断でここまでわかる』を10月20日に刊行した。
血圧、血糖値、コレステロール、腎機能、がん検診……など検査数値の見方が180度変わる実用的なポイントが満載の内容になっている。今回は本の中から健康診断を機に人生を劇的に変えたAさんの体験談を抜粋する。
◆◆◆
「網羅的な採血」は健康診断の時にしか行わない
そもそも、健康診断がなければ、一体どんな時に病院に行くのでしょうか。
何らかの体調不良や風邪の症状を感じた時だと思います。ただ、その際、病院で採血をしても、目的を絞った項目のデータしか出ません。健康診断の時のように、「血糖値」や「コレステロール値」「尿酸値」など幅広いデータを出すような「網羅的な採血」は行わないのです。つまり、健康診断を受けなければ、「自分の全身の状態を知る機会」が無くなってしまうことになる。
しかも、やっかいなことに、脳卒中や心筋梗塞、がん、肝硬変など深刻な病気ほど自覚症状がなく“隠れ”ているものなのです。突如として発症するように見える病気にも確実にその「芽」が存在し、水面下で進行しています。
ところが、健康診断を受ければ、その結果を踏まえて、定期的な服薬を行ったり、生活習慣を変えたりするだけで、深刻な病気の「芽」を潰す確率をグッと上げることができるのです。
ここで「健康診断で人生が変わった」という45歳女性の患者Aさんの事例をご紹介します。
Aさんは2つのパートの仕事を掛け持ちし、子育てに奮闘する2児の母です。朝6時から身支度と朝食の準備をして、子供たちを学校に送り出します。8時から夕方6時までは仕事。その後、帰宅して、子供たちの夕食作りや溜まった家事をすれば、あっという間に1日が終わる。自分の健康なんて構っていられない、そんな毎日でした。
ある日、自治体から「健康診断の実施」を知らせる手紙が届きました。Aさんは「そういえば、久しく受けてないな……」と思い、何気なく受けてみたそうです。
すると、次ページの図表(1)のような結果が出ました(単位は省略)。
一言で言えば、かなり深刻な状態です。肥満、脂質異常症、慢性肝炎、高尿酸血症があります。そして重度の糖尿病も患っている。HbA1c(ヘモグロビン・エー・ワン・シー)は1~2カ月間の血糖値の平均を表し、6.5%以上の数値が出れば、糖尿病と診断される基準の一つとなります。Aさんの場合、それを遥かに超えた10.3%です。通常の2倍近くの血糖値が、ずっと続いていることを意味します。

