心筋梗塞や狭心症のリスクが15%も上昇

 2023年の海外の研究では、HbA1c が1%増加するごとに、心筋梗塞や狭心症になるリスクが約15%も上昇し、HbA1c が8.6%を超えた状態で生活を続けた場合、そのリスクが約1.8倍も高まるという結果が出ています。

 Aさんの血管にはコレステロールと糖質があふれかえり、心臓や肝臓が悲鳴をあげている。「今すぐ何かを変えなければいけない」状況でした。その後の検査でも、C判定やD判定が続くので、当院を訪れた時のAさんは「もう、どうすればいいか分かりません」と頭を抱えていました。

画像はイメージです ©アフロ

 私は、健康診断の数値の見方や放置した場合のリスク、そして改善すべき点を説明しました。「薬は最小限に抑えたい」というAさんの意向もあり、ほとんど薬物治療は行いませんでした。代わりに食事メニューや日々の運動量を指導し、食事量の改善率の計算、体重の記録をつけてもらうようにしました。

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 その結果、Aさんの健康への意識が変わりました。薬を1種類だけに抑えながら、8カ月後には数値が劇的に改善されたのです。

 次ページの図表(2)を見てください。

 

 まるで別人です。実際に体型も見た目も見違えるほど変わりました。高血圧を抱えている人には分かると思いますが、生活習慣の改善だけで血圧を下げるのは至難の業です。しかし、Aさんは収縮期血圧が15(mmHg)、拡張期血圧が9も低下しています。

 日々の血糖コントロールも良好で、HbA1c も10.3%から半分の5.5%まで下がりました。もちろん余裕で基準値の範囲内に収まっています。

失明や足の切断のリスクを回避して人生を切り開いた

 Aさんの頑張りも見事ですが、ここで伝えたいのは健康診断の劇的な効果です。

 仮にAさんが、健康診断を受けずに放置していたらどうなるか。

 例えば、糖尿病を放置すると、全身の血管の動脈硬化が加速します。末梢神経がピリピリと痛み出し、目の血管も糖に侵されて網膜症が進むでしょう。最悪の場合は、脳卒中や心筋梗塞を発症することも考えられますし、あるいは失明に陥ったり、足が腐って切断を余儀なくされるかもしれません。

伊藤医師 ©文藝春秋

 しかし、健康診断を受けたからこそ、自分で深刻な病状を把握し、治療することができた。そして、健康的な生活習慣を身につけられた。Aさんは自分自身の手で運命を切り開いたのです。

 このように健康診断にはおどろくような可能性が秘められています。先にも述べたように病気の芽を摘むための「宝の地図」なのです。しかし、当然のことですが、地図もきちんと読み取れなければ、無駄に終わってしまいます。

次の記事に続く 「足が明らかに腐っている……」日本人の10人に1人が発症する糖尿病が、痛みもなく無自覚な「サイレントキラー」と呼ばれる理由