年間3万人を診察する総合診療医の伊藤大介さんは、「健康診断こそが深刻な病気の『芽』を摘むことができる唯一の方法です」と強調する。
そんな伊藤さんが初の著書『総合診療医が徹底解読 健康診断でここまでわかる』を10月20日に刊行した。
血圧、血糖値、コレステロール、腎機能、がん検診……など検査数値の見方が180度変わる実用的なポイントが満載の内容になっている。今回は本の中から「はじめに」を一挙に公開する。
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「糖分こそが脳の栄養」と炭水化物を食べまくった
私が健康診断の大切さを痛感したのは、今から20年ほど前、大学受験の時代にまでさかのぼります。
その当時の私は、なんと体重が100キロ以上もある巨漢でした。医師になるべく東京大学理科Ⅲ類を目指して、死に物狂いで、それこそ1日12時間以上は勉強していたので、健康のことなんてまったく顧みていませんでした。日々のストレスに加えて、「糖分こそが脳の栄養になる」などと妄信し、炭水化物をひたすら食べまくっていたのです。
その結果、もともと80キロと太り気味だったのが、わずか1年で20キロも太ってしまいました。100キロ超えの膨れ上がった自分を見て「こんなにも簡単に変わってしまうのか!」と人体の恐ろしさを感じたものでした。
さて無事、東大に合格し、迎えた大学1年の夏。「医学に接する」というテーマの短期授業を受けました。2日間だけ、自分が興味のある専門科の医療現場に見学に行き、様々な体験をするという内容でしたが、私は、なんとなく漠然と「人工臓器って面白そうだな」という思いから、「肝胆膵・人工臓器移植外科」を選びました。
その授業で、私は人生ではじめて手術の現場に立ち会っています。19時間という長丁場の壮絶な生体肝移植の現場でした。健康なドナーの肝臓を、それこそ生きたまま他人の肝臓へ移植するという非常に難易度の高い手術です。朝9時スタートで、終わったのは翌朝4時。これが私にとっては強烈な体験でした。
想像してみてください。
19時間ひたすら立ちっぱなしで、わき目も振らず切除や縫合を繰り返す超人的な執刀医がいて、その傍らで100キロ超えの巨漢の私が見守っている。
立っているだけでも一苦労。私は手術開始から数時間後には汗だくで、「ゼーハー」「ゼーハー」と息も絶え絶えでした。足がツラくて、手術中に何度屈伸したかわかりません。この時ほど、自分の体重の重さを呪ったことはなかった。
思わず「うわっ」と声を漏らした健康診断の結果
しかも手術を終えて4時間後の朝8時から、執刀医は何事もなかったかのように元気に英語で術後のカンファレンスをしているではありませんか。「本当に同じ人間か?」と疑うほどのとてつもない体力です。
……と同時に気づきました。「到底今の体重では、自分は医師として使い物にならない。いや、医師にすらなれない」と。
恥ずかしながら、この時はじめて、私は自分の健康と向き合ったわけです。
正直に言います。当時の私は健康診断を受けても結果なんて、ろくに見ていませんでした。「数字やアルファベットが書いてあったな」という程度の認識。受診後に何やら指導を受けた気もしますが、話半分で聞いていて内容もまったく覚えていません。
しかし、自分の健康と向き合うことを決意して、まずは机の引き出しの奥深くに仕舞い込んでいた健康診断の結果を取り出し、見直すことから始めたのです。
冷静に一つ一つの検査結果を見てみると、恐ろしいことになっていました。
LDLコレステロール、中性脂肪、尿酸値が異常に高い数値で、もはや脂肪肝を超えた「NASH」の状態(アルコール以外の原因で肝臓に脂肪が蓄積し、炎症を起こしている)にまで陥っていました。血糖値やHbA1cも高く、完全に糖尿病予備軍です。思わず「うわっ」と声を洩らしてしまうほど酷かった。長期にわたる不摂生がたたり、100キロを超えていたのですから、当然でしょう。

