お風呂に入る前に鏡で「醜い裸」を見る
「まずは痩せなきゃいけない」と思い、ダイエットに取り組みました。少しでも効果を上げるために書籍・論文を読み漁り、徹底的にダイエット法を研究した上で実践しました。すると、約半年後には30キロも減らすことに成功し、体重は70キロを切ったのです。
書けば長くなってしまうので、ダイエット法の詳細は割愛しますが、どうやって痩せたのか、一つだけコツをお伝えします。
それは「鏡」を見ることです。
毎日お風呂に入る前に自分の「醜い裸」を鏡で見る。そうすることで、嫌でも自分が肥満であることを自覚します。ブヨブヨに余った体の贅肉をつまんで、どうすればこの部分を減らすことができるかを自問自答する。「体重」という数値だけでなく、様々な角度から“リアル”な状態を把握することに努めました。
さらに少しでも痩せたら、「お、すごいじゃん!」と自分で自分を褒めてあげる。逆に飲み会などで食べ過ぎたときは、「そんなことしてるから、いつまでも太ったままなんだよ! 本当に変わりたいのか?」と、自分のことを徹底的に罵るのです。
今、振り返ってもやや過激な方法ではありますが、私にとっては、自分の体とはじめて本気で向き合った貴重な体験でした。
相当な減量に加えて、おそらく生活習慣も改善されたはずです。大学2年の時に受けた健康診断では、以前あれほど悪かった肝機能の数値は劇的に改善され、糖尿病予備軍の状態も解消しました。外見だけでなく、内臓から健康であることも証明できたのです。
このことから、大学生ながら、私は多くのことを学びました。
自分の体を見つめることで、人生の選択肢の幅は広げられるということ。ただ、自分の体を「見つめよう」としない限り、それはいつまで経っても果たされないということ。日々の生活における一つ一つの行動が自分の体を形作っています。そして自分の力でいくらでもそれらはコントロールできるのです。
筋骨隆々でも血圧が高く、やせ型でも脂肪肝の場合が……
私がこうした健康への見方を培ったきっかけは、間違いなく大学時代のダイエットであり、あの時に、逃げずに直視した健康診断の結果でした。
後に医師になり、私は多くの患者さんと向き合うようになりました。健康診断の相談も毎日のように受けています。
ただ、自分自身の健康診断の結果を見る時は、今もドキドキです。もちろん、大方の数値は予測できますが、意外な結果が出ていた場合は「生活習慣に問題があったのかな。そういえば最近……」と思い返して、すぐに改善するようにしています。そして再検査を受ける。この繰り返しです。
私がダイエット時に、嫌な思いをしながらも鏡でチェックしたように、人は本当に「マズい」と感じなければ、自分の健康とは向き合わないものです。現代人は日々の忙しさにかまけて、つい健康のことは後回しにしがち。患者さんを診ていても、人生における健康の優先順位は決して高くない人が多いことが分かります。
また、当然ですが、外見とは違って、内臓の健康状態は簡単には分かりません。見た目の良さとは大きく食い違っていることも多々あります。筋骨隆々な人でも血圧や血糖値が高かったり、やせ型の人でも腹部超音波を当てると脂肪肝だったりします。
だからこそ健康診断によるチェックが必要です。
健康診断は内臓の状態を知ることができる、いわば「鏡」のようなものです。検査結果の数値や医師の所見によって、内臓の健康状態を客観的に映し出します。目に見える形にしてくれるのです。異常な数値が目に飛び込んでくれば、自分の健康が危機に瀕していることを肌で感じて、「なんとかしなきゃ」と思える。そこにこそ健康診断の最大の価値があるのです。
長年の不摂生で内臓が悲鳴をあげているのに見て見ぬふりをして、健康診断を受けない、あるいは受けても活用しなければ、「意味がない」と思うのも当然でしょう。
ただ、幾らお金を積んでも健康は買えません。健康とは他の何物にも代え難いあなたの「財産」であり、「宝」です。そのことに、ある日突然、痛みや苦しい症状に襲われ、深刻な病気に罹ってはじめて気づく人がいかに多いことか。
健康診断は「鏡」であると同時に、その結果を十分に活かして、病気を未然に防ぐことを目的にすれば、「宝の地図」にも変わります。しかし、地図ですから、ある程度の見方を教えてくれるコンパスが必要です。本書に、そのコンパスのような役割を担わせるために、健康診断の効果を徹底的に、かつ分かりやすくお伝えしていきます。
伊藤大介(いとう・だいすけ)
1984年、岐阜県生まれ。東京大学医学部卒業後、同大医学部外科博士課程修了。肝胆膵の外科医を経て、その後、内科医・皮膚科医に転身。日本赤十字医療センターや公立昭和病院などを経て、2020年に一之江駅前ひまわり医院院長に就任。1日に約150人、年間3万人以上の患者を診察する。日本プライマリ・ケア連合学会認定医、同指導医、日本病院総合診療医学会認定医、マンモグラフィ読影医。2025 年に日本外科学会優秀論文賞を受賞。

