ChatGPTのエロティカ解禁は単なる機能追加ではない

 カード会社は直接OpenAIを名指ししない。代わりに決済代行会社や取引銀行が忖度して制裁を執行する。その結果、どこで資金の流れが止まったのかさえ分からないまま、サービス全体が機能不全に陥る。過去の事例でも、PatreonやOnlyFansがカード会社の圧力で一時的に成人向け投稿を禁止し、数百万のクリエイターが収入源を断たれた。AIも同じ轍を踏む可能性は高い。

 アルトマンが「成人を成人として扱う」と語ったのはもっともだ。だが、自由の拡張は金融インフラという“見えない壁”と正面衝突する。カード会社は契約上、「社会的に不快」と判断した取引を拒否できる。

 つまり、合法であっても、何らかの圧力団体が持つ価値観で排除される余地が残るのだ。AIが描く物語の一行、あるいは生成画像の一枚が、世界の倫理基準を動かす爆薬になる可能性すらある。ChatGPTのエロティカ解禁は、単なる機能追加ではない。AI表現の自由と金融権力の衝突という、前例のない実験の幕開けである。

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写真はイメージ ©AFLO

 それでもOpenAIは進む覚悟を見せている。年齢認証システムを盾に「健全な成人向け利用」と主張し、コンテンツ制御の技術力で突破口を開こうとしている。

 しかし、もしVisaやMastercardが「ノー」を突きつければ、約7億人が使うChatGPTであってもひとたまりもない。決済を止められればサブスクリプション収入は断たれ、サービス継続すら危うくなる。エロ解禁の成否は、技術や倫理ではなく金融の意志が握っているのだ。

 そしてもう1つの懸念は、ユーザーの側にある。AIとの親密な対話が、やがて心理的依存を生む可能性だ。実際、AIチャットにのめり込み、利用をやめると不安や抑うつを感じる“AI漬け”が報告されている。ReplikaというAI恋人アプリが性的チャット機能を禁止した際には、利用者が「恋愛関係の崩壊」や喪失感に打ちひしがれ、混乱が広がった。ChatGPTがより高度で没入感のある対話を提供すれば、同じ現象が再燃する可能性は極めて高い。

 AIとエロティカ。そこにあるのは好奇心だけではなく、金融と倫理、そして人間の心を巻き込む“新しい火薬庫”である。OpenAIが火をつけたこの実験は、自由か抑圧か、創造か規制かという時代の分岐点を私たちに突きつけている。12月の解禁は、AIがどこまで「大人の世界」に耐えられるかを試す、大きな試練となるだろう。

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