司会:編集者は、兼業でデビューされた作家さんの生活・働き方というのもサポートするんでしょうか?

川村:……頑張っていただくしかない! というのが本音なのですが(笑)。どんな仕事でもそうだと思いますが、まずはお相手の方に信頼していただくことがスタートラインだと思っています。特に新人作家さんや、初めて小説を書くという方は不安なことも多いと思うので、コミュニケーションをこまめにとって、丁寧に関係性を作れるように心がけています。仕事に直接関係ないことでも色々お話しして、「こういう面白い本ありましたよ」とか、「次の作品にこういうアイデアどうですか」とか、カジュアルにポンポンやりとりすることも多いです。もちろん仕事ですから、ある程度の緊張感を伴いますが、刺激的で楽しいです。

城戸川:川村さんはとにかくレスポンスが早いので、思いつきを送って、それに対してリアクションが来てというのが全然ストレスなくできるので、もうめちゃくちゃありがたい。小説を書いて、認識をすり合わせて、また次を書いて、という一連の流れがすごくうまく回っているなという感覚はあります。ほんと、編集者って商社でいえば優秀なプロジェクトマネージャーだな、と思います。

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川村:いやいや、褒めすぎですね、そんなかっちりした仕事でもないというか……。私は編集者の仕事は「遊びながら働く仕事」だと捉えていて。とにかく何でも仕事にできちゃうんですよね。例えば面白かったマンガ、好きな映画があれば、それを一番に面白がってくれそうな作家さんに伝える。それを出発点に話が盛り上がって、連載のテーマが決まったりとか。編集者の大切な仕事のひとつに、「売り方を考える」ということもあるので、本以外でも売れている商品は「なんで売れてるんだろう?」と調べて、売るヒントを探してみたり……なんて偉そうなこと言ってますが、まだまだ全然活かせていないのでふがいないです。自分の好奇心が全部仕事に繋がっていくので、ほんと、ずっと楽しいですよ。ただ、作品の売れ行きが思うように伸びないと、めっちゃくちゃ落ち込むし、私に責任があると思っているので原因を考えて反省して……を繰り返しています。楽しいけどいつまでも自信はつかない、そんな仕事かもしれません(笑)。

「ここ、いらないですっ」渾身のパートを全カットされ……

司会:応募作が本になるまでの間ではどういった校正があったんですか?

川村:物語の骨格はもうこのまま、キャラクターもすごく強いですし、基本的には元を活かす形でという大前提でしたが、ちょっと枚数が多かったんですね。多分今の1.25倍ぐらい。

城戸川:結構ありましたよね。アドバイスに沿って、最終的にはかなり削りました。

川村:はい、その節はありがとうございました……作家さんは全精力を傾けて作品を書いているので、その一部を「取ってください」って、とても勇気のいるお願いなんです。若手だったころは、作家さんからお返事をいただくまでドキドキして眠れないこともありました。でも、作品をより良くするために、ときには何ページも取ってくださいと言わないといけないこともある。担当として至らないことも多いと思いますが、自分なりに誠意を持って理由をしっかり説明できるようにとは思っています。

城戸川:今回削ったのは「何ページ」じゃなくて「何十ページ」でしたよね(笑)。私からすると、もう完成したつもりだったんですけど、いざ編集のプロから見たら「ここもっと削れますよね」とか「このエピソードまるまるいらないですよね」とご意見が挙がって……。

 自分の中では「俺はここで会社員の悲哀を書き切るんだ!」と、グワッと力を入れて書いたところがほぼ全カットになって。最初言われた時は「いやいや分かってねぇな~」と思ってたんですけど、でもグッと飲み込んで削ったら、ものすごく良くなった。

「確かにこれのせいで展開が遅いな」とか「脇道に逸れてるな」とか。アドバイス頂いたところを丹念に読むと「確かに」って納得のいく部分ばかりで。「じゃ、ここ直しといてください。以上」じゃなくて、普段のコミュニケーションや信頼感があるからこそ信じて削ることができたし、小説も良くなった。そうやって第2作『高宮麻綾の退職願』も書き上げましたので、ぜひ皆さん読んでください。

シリーズ待望の続編『高宮麻綾の退職願』