就活生からの質問は…?
後半はインターンシップとして、課題図書『高宮麻綾の引継書』を読んだ“就活生記者”からの質問が続々と飛び出した。
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就活生:本日は素敵なお話をありがとうございました。ひたすら仕事で幸せを追求しようとする、高宮麻綾の主人公像が印象的でした。城戸川先生が作家業でも商社でも、仕事で幸せを追求していく中で守っているマイルールがあれば聞かせていただきたいなと思います。
城戸川:マイルールは2つあって、1つ目は「自分の“好き”を取り繕わない」。何かを好きだと言うとき、人の目を意識して言っていることも多いと思うけど、そうじゃなくて本心から好きであるかは自問自答しています。
もう1つは「人に迷惑かけない」こと。例えば僕の直接の仕事相手は編集者の川村さんだけど、その先には書店員さんや営業、PRの方など、もっと多くの人がいることを忘れないようにする。自分ファーストで成し遂げられることなんてたかが知れていて、いろんな人間関係の中で「どうすればベストの形に持っていけるか」を考えることが大事ですよね。
就活生:小説でオリジナリティを出すために意識されていることはありますか?
城戸川:どうしても内容や題材がカブってしまう時はあって、本を読んで「うわ、これ俺の方が早く書きたかった」って思うときもあるんですけど(笑)。ただ「かぶる」のはしょうがなくて、そこで自分の人生だったり経験を反映させる。そこから滲み出る何かをちゃんと書くのが大事だと思います。
まったく同じ経験をした人なんていないわけで、私だったら、会社員として働く中で感じた喜怒哀楽をしっかり入れていく。そこをリアルな手触り感のまま書けるかっていうのは意識しています。自分の経験に付随する感情をしっかり書くことが、オリジナリティにつながっている気がします。
「この主人公、●●は?」商社の先輩に気づかされた“盲点”
就活生:今作、とても楽しく読ませていただいて、特に麻綾のキャラクターが印象的で、読んでる間、思考回路が伝染っちゃうくらい魅力的でした。
本作は先生の実体験がかなり反映されていると伺ったんですが、女性主人公で書いたのには何か理由があるのですか?
城戸川:女性であることにこだわったつもりはなくて。このストーリーを一番面白くしてくれそうな主人公ってどんな人だろうって考えていったら、たまたま高宮麻綾という、自分より年下で性別も違う人が主人公になりました。
ただ、女性の生活、身体のことだったり、自分が知らないことを知ったかぶりでは書かないように気を付けましたね。実は、構想時点では麻綾の想定年齢はもう少し上だったんです。賞に応募する前に「主人公のこういう行動はどう思いますか?」と、会社の女性の先輩に感想を求めたら「この主人公は恋人はいて結婚願望はあるの?」と質問されて……。「考えていませんでした」と言うと「この世代の働く女性なら絶対考えているトピックのはずだよ」と助言してくれました。それもあって、「まずは仕事」と集中し易い入社3年目という設定に変更したんです。
就活生: 城戸川さんが考える、信頼できる編集者の能力はどんなものだと思いますか?
城戸川: やっぱり、本音で意見を言い合えることが大事ですね。デビューした直後、プロモーションについて「あの時OKって言いましたけど、考え直した結果やっぱりこうしてほしい」と伝えた時、担当の川村さんはすぐに迎合したりせず「でもこちらとしてはこう考えています」と返してくれました。プロモーションだけでなく、タイトルの決め方など色々なトピックでLINEで意見交換して。
川村:えげつない長文のやり取り、しましたね(笑)。
城戸川:でも、それがあったからこそ、しっかり考えてくださっているのが伝わってきましたし、お互い一歩も譲らずに話し合った結果、良い本ができたんだと思います。20年、30年生きてると正直「あ、この人ちょっと守ってるな」とか「本音じゃないな」と感じることがありますよね。でも川村さんとは、お互い本音でやり取りできている実感があった。そういう信頼関係があると、良い本を書き続けられるんじゃないかなって思います。デビューしてまだ5ヶ月ですけど(笑)。

