「弟は後ろ手に縛られて、父親の…」

 塚原さんは、弟が小学6年生のときに父親から性虐待に遭っている現場を目撃している。

「弟は後ろ手に縛られて、父親の性器を口中に入れられたりだとか、『ああするんだぞ』『こうするんだぞ』と、命令をされてるのを見ています」

塚原たえさん

 父親は虐待を隠そうともしなかった。塚原さんが被害を受けている場面で、弟を隣に座らせて見せつけるようなこともあったという。

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「父親から『下着を脱いで足を広げろ』と言われた時、父親の隣に弟も座らされました。私も弟も嫌がっていましたが、そのまま2人に見られるかたちで続けさせられて」

 虐待は日常的に繰り返された。

「私と弟が服も下着も全部脱がされて裸にされて、手首を紐で縛って鴨居にぶら下げられ、洗濯のホースや革のベルトで叩かれました」

秋山千佳さん

 さらに父親は、傷口に調味料をかけるという残忍な行為にも及んだ。

「洗濯のホースとかで叩かれた後っていうのは傷が裂けるんですね。そこにお酢やお醤油をかけると激痛なんです。私も弟も傷口にかけられていました」

弟は誰にも助けを求めることができなかった

 同じように虐待を受けながら、姉弟の運命は大きく分かれた。塚原さんには後に体を張って守ってくれる夫と出会い、救いの手が差し伸べられた。しかし弟には、そうした存在が現れることはなかった。

「弟は男の子なので、外に助けを求めることができなかったのだと思うんです。時代的にも男の子の性被害とか性虐待っていうのはタブー視されていた。他の人に言えないと、誰も助けてはくれないので……」

 弟は成人後、戸籍に閲覧制限をかけるなど、父親から必死に逃れようとした。弁護士が戸籍謄本を調べた際も、「先が追えなかった」という状況だった。

「そのくらい弟も最後は父親から逃げるようにして暮らしていたんですよね。戸籍謄本に制限をかけるくらい、弟も逃げたくてしょうがなかったんだろうなって。やっと逃げたところで、自殺を選んでしまった」