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なぜ流通するウナギの半分以上が「違法」なのか

ニホンウナギ絶滅の危機が叫ばれる中、密漁・密輸が絶えない理由

2018/08/01
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密漁は反社会的勢力が行なっているのか

 密漁や密売は、反社会的勢力が主に行なっているのでしょうか。暴力団が関与しているケースは実際に多く見られるようですが、必ずしもすべての違法行為に、暴力団などの反社会的勢力が関わっているわけではありません。

 ごく普通にウナギの流通や養殖を手がけている個人や組織が、裏で密漁や密売に関わっている事例も多いと考えられます。私が直接見聞きしたケースでは、九州の、ある大きな養殖業者が他県の漁業者を使嗾(しそう)し、シラスウナギの密漁をさせていました。

 シラスウナギの密漁や密売は、ウナギの業界ではごく当たり前のことであり、シラスウナギをスムーズに入手させてくれる「必要悪」だと信じられています。暴力団の関与はもちろん解決すべき課題の一つですが、ウナギ業界の構造や考え方、シラスウナギ採捕と流通のシステムそのものが、大きな問題を抱えていることを認識し、対応する必要があります。

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天然ウナギは、現在ではほとんど商業的に流通していない ©iStock.com

密売を促進するシステム「受給契約」

 密漁は特別採捕許可を受けずにシラスウナギを採捕する行為です。これとは別に、許可を受けた採捕者や取り扱い業者が採捕数を少なく報告し、一部のシラスウナギを密売するケースも多いと考えられています。これは密漁と同様に、法律に違反する行為です。

 特別採捕許可を得ている採捕者が、実際の採捕量よりも少なく報告を行うインセンティブのひとつに「販売価格の差」があります。より高くシラスウナギを売ろうとする行為が、採捕量の過小報告に結びつくのです。

 ウナギ養殖が盛んな県では、採捕されたシラスウナギを県外へ販売することを、制限している場合があります。業界紙である日本養殖新聞の調べでは、千葉県、静岡県、和歌山県、愛媛県、大分県、宮崎県、鹿児島県において、何らかのかたちで県外へのシラスウナギ販売が制限されています。県内で採捕したシラスウナギを、指定業者に販売することを義務付ける規則で、「受給契約」と呼ばれます。販売先には県内の業者が指定されるため、結果的に県外への販売が制限されるのです。

価格が高騰して「白いダイヤ」とも呼ばれるシラスウナギ ©海部健三

 受給契約では、シラスウナギの販売価格は、全国の市場価格よりも低く設定されます。例えば今期は採捕が不調でシラスウナギの価格が高騰し、最高値はキロあたり400万円とも言われました。それにもかかわらず受給契約には、指定業者への販売価格が70万円から130万円と設定されていた場合もありました。

 シラスウナギを採捕して販売する側としては、規則に則って指定業者に安い価格で販売するよりも、規則を破って他の業者に市場価格で売った方が、高い利益を得ることができます。規則に違反して販売する場合、その漁獲量が行政に対して報告されることはありません。このような形で、県のシラスウナギ流通システムである「受給契約」が、過小報告という違法行為を促進していると考えられています。