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なぜ香港経由の密輸が盛んになったのか

 シラスウナギの密輸にも、日本国内の受給契約に似た背景が存在します。台湾から香港を経由して日本にシラスウナギが密輸されていることは、報道でもたびたび指摘されています。台湾から香港を経由する密輸が盛んになったのは、2007年10月に台湾がシラスウナギの輸出を制限した後のことと考えられますが、実は、先に輸出を制限したのは日本でした。

 日本と台湾がシラスウナギの輸出を制限するより前、来遊時期の早い台湾で漁獲されたシラスウナギは、土用の丑の日に間に合わせるために、早い時期に養殖を開始したい日本へ輸出されていました。その一方で、台湾では日本へ遅い時期に来遊するシラスウナギを輸入して、養殖していたのです。

 日本がシラスウナギの輸出を制限したのち、台湾の養殖業者は、日本に輸出制限の緩和を求めてきました。しかし2007年4月、日本は輸出制限を継続する決定を下し、同年10月に台湾がシラスウナギの輸出を制限したのです。台湾によるシラスウナギの輸出制限は、日本が輸出制限の継続を選択したことに対する報復措置であったと考えられます。

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 両国によるシラスウナギ資源の囲い込みが、密輸を促進しているのです。

ウナギの養殖場(本文とは関係ありません) ©AFLO

誰が適切な流通システムの構築を阻害しているのか

 ここ数年で、シラスウナギをめぐる違法行為に関する報道が目立つようになりました。これらの報道に関し、上述の密漁を行わせていた養殖業者とはまた別の、しかし同じように国内大手のウナギ養殖場の経営者は、筆者に対して、「火のない所に煙は立たないのだから、黙っておけ」と言いました。シラスウナギをめぐる違法行為について、表立って発言するな、という意図です。この発言で興味深いところは、シラスウナギをめぐる違法行為そのものではなく、違法行為をめぐる筆者の発言を「火」と捉えているところです。おそらく、報道が「煙」に相当するのでしょう。

 この人物は、上記発言から数ヶ月後の別の機会には、「(シラスウナギの採捕・流通に関する規則を)あんまりきつくしたら、ワシらの池にシラスが入らなくなる」と発言しました。二つの発言をまとめると、“違法行為を取り締まったらシラスウナギの入手が困難になって商売が滞るから、黙認しろ”ということになります。これが、日本最大級の養殖場経営者の感覚です。

 ブロックチェーン技術などを利用して、適切な採捕と流通のルールを設定することは、技術的に可能です。改革が進まない主要な要因は、現行制度における利害関係が固定化し、現在のルールで利益を得られる個人や組織が、ルールの変更に反対していることであると考えています。

ウナギ絶滅の危機が叫ばれて久しいが、業界は儲かっている ©iStock.com

 ニホンウナギの危機的状況が叫ばれる中、なぜウナギ養殖を継続する業者が数多く存在するのでしょうか。コンプライアンスや持続性を重要視する姿勢を強調する大規模小売業者や生活協同組合が、違法行為の蔓延するウナギの販売をやめないのは、なぜなのでしょうか。答えはシンプルで、ウナギが利益率の高い商材であるためです。

 シラスウナギの採捕・流通システムの改革に反対する、または消極的な姿勢を見せるのは、違法行為が蔓延している現在のシステムで得られる利益を失いたくない個人や組織です。これらの個人や組織が、ウナギに違法行為がつきまとい続ける要因なのです。