「初対面のパク監督はポニーテール姿。私は個人的にその髪型が苦手だったので、印象が悪く、この人とは一緒に仕事をしないだろうと思ったんですよ」と語って笑わせた。結果的に韓国軍兵士役を引き受けたところ、興行的にも批評的にも大成功し、それまで映画ではヒット作のなかったビョンホンにとっても出世作となった。その後、二人は2004年のオムニバス映画『美しい夜、残酷な朝』の一編「cut」を経て、『NO OTHER CHOICE』では21 年ぶりにタッグを組んだ。

新作『NO OTHER CHOICE』はブラック・コメディ

「長い間演技をしているはずなのに、パク・チャヌク監督との仕事では新しい発見があります。よく私も映画監督をやってみたらと言われることがあり、パク監督からも言われたことがありますが、パク監督がどれだけディテールにこだわって作業するかを間近で見ていると、自分にはここまでのことは出来ないと思います。とにかくクリエイティブでアイデアが豊富だし、大量の仕事をこなしている。単純に奇抜なアイデアを考えることは他の人にも出来るでしょうが、パク監督のそれにはちゃんと意味も込められているんです」

『No Other Choice』会見(左からパク・チャヌク監督、イ・ビョンホン) ©AyakoIshizu

『NO OTHER CHOICE』は、製紙会社をリストラされた真面目な男が再就職に必死になるあまり、ライバルを次々と殺していくというブラック・コメディだ。原作はアメリカの作家ドナルド・E・ウェストレイクの『斧』(邦訳は文春文庫=品切れ中)。

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『No Other Choice』妻役は『愛の不時着』のソン・イェジン

「この映画で好きなのは、最初の方で光が反射するシーン。セリフを言いながら歯を痛がる動作もしていて、何気なく見えますが、見た目以上に難しかった。自然にセリフが出るようになるまで完璧に覚えないといけない。映画ではなんてことなく見えるシーンでも、実はそういう背景があります。方言や英語のセリフは言葉を頭で考えていると、感情表現が出来ません。言葉が口から自然に出るようになるまで練習して叩き込みます」と完璧主義の一端を垣間見せた。

子供の頃は歯を見せて笑わないようにしていた

 スターらしい華やかさと、エリートからゲスな犯罪者、さえない庶民から王様までこなす演技の幅広さを備えた韓国随一の俳優と言えるビョンホンだが、コンプレックスもあると話す。ビョンホンのトレードマークとも言える長く白い歯だが、それを見せることが苦手だったと言うのだ。

©2025BIFF

「子どもの頃は、歯を見せて笑わないようにしていました。唇が厚めだったので、ゴリラとあだ名されていたんです。自分の声も、あまり好きではありませんでした。母方の親族がアメリカに移住していたので、昔は家族でカセットテープにメッセージを録音して小包で送っていたのですが、自分の声を聞くのが嫌でしたね。でもデビューしたら、声がいいとか笑顔がいいとか言われるようになった。だから短所だと自分で思っていたことが、後に大きな武器になることもある、と後輩の俳優たちには伝えています」と明かした。ビョンホンはよく響く低音の美声の持ち主だと思うが、もしかすると子供としては落ち着き過ぎていたのかもしれない。