岩井俊二、坂元裕二から愛される“器”としての才能
実際『カムカム』以降の松村は、新海誠作のアニメ映画『すずめの戸締まり』を皮切りに、三宅唱、岩井俊二、坂元裕二といった日本を代表するクリエイターたちの作品に次々と抜擢されていく。
そんな松村の俳優としての魅力を語るとき、どうしても「雰囲気が……」「佇まいが……」「表情が……」と漠然とした表現を使いたくなる。しかし、彼は役者としてだけでなく、物語を媒介する“器”としても逸材なのである。
先日放送された松村北斗×新海誠×奥山由之の『ボクらの時代』(フジテレビ系)で、奥山が語った「圧倒的に目を引く人なんだけれど、同時にその世界にシームレスに溶け込んでるっていうか……」という一言が、まさに俳優・松村北斗の本質を言い当てていた。
“個性を消せる”という個性
松村の出演作には、〇〇役の松村北斗ではなく「〇〇作品の松村北斗」がいる。だからこそクリエイターたちは、松村の最高傑作が更新されつづけようとも、彼という“器”を通して、自分だけの物語を紡ぎたくなるのではないか。
同じ回では、アイドルとしての自分について聞かれた松村が、素直な胸の内も打ち明けていた。その言葉には、錚々たる作り手たちから求められつづけることへの戸惑いと、どれだけ個人として評価されようとも、グループに属していることの意味がにじむ。
「6人でいるときのほうがある意味分散する」「SixTONESって一個の名前が設けられて、自分はSixTONESという細胞の6分の1でしかないと思うと、いらない緊張感を取っ払いやすくなる」(フジテレビ系『ボクらの時代』2025年10月12日放送)
彼の本業が“アイドル”であることにいまだ驚く人もいるだろう。だが、SixTONESという母体があるからこそ、俳優としての松村は徹底的に“個”を消し、物語の一部として存在できるのかもしれない。まだ知らない松村北斗がこれから先も現れるのだと思うと、実に末恐ろしい俳優である。
