坂元裕二が松村北斗に突きつけた“挑戦状”
俳優・松村北斗の活躍は2025年も凄まじかった。特に上半期は、坂元裕二脚本の映画『ファーストキス 1ST KISS』で、坂元作品の“ミューズ”こと松たか子の相手役に抜擢。坂元特有の詩的で長めな言い回しは、リトマス試験紙のごとく演じ手の力量を炙り出し、年齢もキャリアも離れた松との共演は、あらためて“俳優”として試される場でもあった。
タイムトラベルを繰り返すカンナ(松たか子)があえて駈(松村北斗)を突き放す後半戦からは、特に松村に託されたシーンが多かったものの、松と並ぶ存在感で作品のもう一つの軸になっていた。その結果、『ファーストキス』はもともと高かった期待値をさらに上回り、興行収入28.2億円の大ヒットを記録する。
『ファーストキス』でも「松村北斗ってアイドルだったのか」現象は起きていたが、その原点をたどれば、やはり2021年後期の朝ドラ『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)に行き着く。
松村北斗のキャリアを変えた“稔さんロス”
STARTO ENTERTAINMENTタレントの朝ドラ出演、とりわけ長期スケジュールの確保が難しいデビュー組の起用はまだ珍しかった。そんな中でひとつの流れを作ったのが、2021年前期の朝ドラ『おかえりモネ』で、ヒロインの幼なじみ・りょーちんを演じたKing & Princeの永瀬廉だ。当時すでに多忙を極めていた永瀬が、朝ドラのような長期作品に腰を据え、ひとつの役に向き合うことができたのは、コロナ禍における“不幸中の幸い”だったと思う。
永瀬と同じくオーディションで役を射止めた松村は、最初のヒロイン・安子(上白石萌音)の夫となる稔を演じ、アイドルに関心のない一般層や中高年の朝ドラ視聴者の心を掴んだ。稔は物語の序盤で早々に退場してしまうが、わずか1カ月にも満たない登場ながら、視聴者にたしかな痕跡を残した。思い返してみれば、のちに松村が俳優として確固たる地位を築くことを、すでに予感させていたエピソードだったのかもしれない。
