10月28日に安倍元首相銃撃事件の裁判が始まる。山上徹也被告の量刑判断の争点を、学者や弁護士などの有識者に鈴木エイト氏が訊ねた。
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裁判所は踏み込んで判断すべき
山上の生育歴が情状酌量としてどの程度考慮され、認められるのかは、本裁判の大きな争点のひとつになるだろう。
宗教学研究の第一人者である島薗進氏(東京大学名誉教授・上智大学神学部特任教授)は、社会的視点からの見解を示した。
「事件を山上個人の問題として捉えるのか、それとも背景にある社会的な問題として捉えるのか。裁判所がどこまで踏み込んで判断するのか、注目しています。私自身は、社会的な問題として捉えるべきだと考えています。なぜなら、山上個人の責任を問うだけでは問題の根本的な解決にはならない。同じような事件を二度と起こさせないために、社会全体で宗教と政治の問題、宗教と人権の問題を考えていく必要があるからです」
統一教会の被害者救済に長年取り組む全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)の渡辺博弁護士は、犯した行為に対して正当な裁きを受けることは当然とした上で、山上がカルト教団の被害者でもある側面に触れる。
「これまでたくさんの霊感商法や高額献金の被害者と被害者家族を見てきましたが、その中には山上被告のお兄さんのように自殺に追い込まれた人も少なくありません。山上被告自身も、最愛の家族を奪われ、苦しかっただろうと思います。その深刻さが分かっている身からすれば、裁判所には、問題が社会で長く放置されてきた事実も、一定程度は考慮してもらいたい。少なくとも、こうした事情を知る証人の尋問は認められて然るべきです」
だが、検察は山上の高い計画性や、手製の銃の殺傷能力の高さなどから、死刑、あるいは無期拘禁刑を求刑する可能性も指摘されている。
「被害者が1人の場合、有期刑が求刑されることもありますが、今回、検察が無期拘禁刑を求めることは十分に考えられます。周辺に大勢の人がいる中で武器を使用した危険性はもとより、やはり元首相で指導力のある人物に対して攻撃がなされ、大きな社会的混乱を及ぼしたことは重く見られると思います」(同前)
つまり、被害者が安倍氏という大物政治家であることが、量刑に影響を及ぼす可能性は否定できないということだ。前出の渡邉良平弁護士も、「判決文で『社会に衝撃を与えた』『影響力が大きい』といった表現が加えられ、被告人に不利な事情として用いられるケースは多い」という。

