国際機関で働くのが夢だったAさん

 高校2年のときに語学研修の目的で、アメリカ・ユタ州を訪れてホームステイを経験したAさんは、将来は国際機関で働きたいとの夢を持っており、大学でもNGOサークルで、途上国の貧困・飢餓の撲滅を啓発する活動に取り組んでいた。

 島根県立大学の学校関係者は当時、「(Aさんは)授業に真面目に出て、友人も多かった。海外に雄飛するという夢の実現に向けて努力していた、未来ある人生が断ち切られた」と、無念の思いを口にしている。

 Aさんが最後に目撃されたショッピングセンターから学生寮までの距離は約2.5キロメートルあり、夜間に人気のない山道を抜けなければならない。Aさんの同級生は語った。

Aさんがアルバイトで勤めていたショッピングセンター(2025年3月、筆者撮影)

「寮は丘の上にあるので、私たちは街中から寮に帰ることを“登山”、寮から街中に出ることを“下山”と言っていました。車やバイクを持っていれば別ですけど、それ以外はバスかタクシーか歩きしかありません。夜になると本当に道が真っ暗になるのですが、バスの本数は少なかった。Aさんは『貯金したいから、タクシー代を節約して歩くんだ』と話していました」

 この同級生によれば、Aさんは「海外でのボランティア活動に行きたい」と語っていたそうで、そのための貯金をしていたという。

 また、Aさんと同じ寮に住んでいる別の同級生は話す。

「事件が起きてすぐに寮生全員が大学内の一室に集められ、警察から事情を聞かれました。そこではAさんについて、気になったことはないか、当日の夜に何をしていたのか、バイト先はどこか、帰り道のルートはどこを通るのかを細かく聞かれました」

数名の“疑わしい”人物

 その一方で、捜査本部内では遺体発見から間もないうちに、数名の“疑わしい”人物の絞り込みが行われていたことが確認されている。島根県警担当記者は明かす。

「警察は3人の男の写真を持って、一軒一軒聞き込みをしていたようです。同時に、発見された遺体の状態から、犯行内容の猟奇性が疑われるため、レンタルビデオ店に対して、ホラー映画を頻繁に借りていた人物についての情報提供を求めたりもしています」

 迅速な捜査の動きからいって、かねてマークしていた、管内の性犯罪前歴者などの行動について、確認が行われたことは想像に難くない。

※本記事の全文(約4000文字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(小野一光「バイト先から学生寮までの夜間の人気のない山道で起きた惨劇」)。

 

■「平成凶悪事件と『その後』」

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#1 バイト先から学生寮までの夜間の人気のない山道で起きた惨劇 この記事
#2 捜査は7年も続いたが、犯人は遺体発見の2日後に死んでいた
#3 「無駄な捜査は一つもなかった」と総括した警察

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