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2018/07/28

 50歳を過ぎたあたりから、ルドンは本格的に「色」を扱いはじめる。パステルを用いた、数々の色が響き合う花の絵などが登場するのだ。年齢を重ねてのちに根本的に変化するなんて、なかなかできることじゃないだろうに。よほど切実な思いがルドンの胸中にあったと想像するしかない。

《日本風の花瓶》1908年 ポーラ美術館

ルドンが生み出す幻想の世界に遊びたい

 今展では、ルドンが世に出るきっかけとなった版画集《夢のなかで》をはじめ版画作品の数々、神話の一場面を描いた幻想的な油彩画、パステルによる華麗かつはかなさも漂う花の絵など、彼のあらゆる時代の画業を観ることができる。内気だが、それゆえ内面世界を深く広く開拓できたひとりの人物の生涯を、ビジュアル作品を通してたどるのは、この上なく興味深い。

 

 さらにはルドンがいまの表現者にどう影響を与え、彼の精神がいかに受け継がれてきたかを探るべく、現代のアーティストによる作品も並べて展示してあっておもしろい。

イケムラレイコ《HarukoⅡ》2017年 作家蔵

 文学などに題材をとり幻想的な画面を生み出してきた版画家・柄澤齊(からさわ・ひとし)。ルドンと同じように内面へと深く潜り、どこか深いところから取り出してきたイメージを絵画や立体にするイケムラレイコ。かわいらしさと不気味さのあわいにある存在を想像し、民俗学的な視点を織り交ぜながら作品をつくっている鴻池朋子といった現代アーティストによる作品も展示されており、ルドンに肉薄していく。

鴻池朋子《素焼粘土》2013年 作家蔵

 深い森の中にある美術館で、だれかの内側の世界へどこまでも降りていくという体験は、なかなかスリリングだ。戻ってこられなくなるんじゃないかと不安にも駆られるので、現実の世界につながる綱はちゃんと握りしめつつ、会場を思うがままに巡ってみたい。

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