「おう、さんまや。いま何しとんねん?」

 自宅にいきなりかかってきた明石家さんまを名乗る男からの電話。この電話の正体は正真正銘の明石家さんま。それにもかかわらず、一緒に仕事もしたテレビマンが「ただのイタズラ」と勘違いしてしまったワケとは……? 番組プロデューサーとして長年、明石家さんまと公私にわたって親交を深めてきたTVプロデューサー・吉川圭三氏の新刊『人間・明石家さんま』(新潮社)より一部抜粋してお届けする。(全3回の1回目/続きを読む

写真はイメージ ©getty

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明石家さんまを名乗る不可解な日曜の2回の電話

 さんまが離婚する直前の1992年初夏の日曜の午後2時辺りだった。私は、自分が企画・演出をしていた、1991年4月に始まった番組「世界まる見え!テレビ特捜部」のために土曜の朝から日曜の朝まで24時間ほど編集作業をして、自宅マンションでぐったりと寝ている時だった。

 携帯電話もほとんど普及していない頃、遠くで電話が鳴っている。妻は外出していて、呼び出し音がずっと鳴り続けているので電話に出た。

 その声は言った。

「おう、さんまや。いま何しとんねん?」

 さんまさん……本人? 冗談だろう? ちょっとその声はガラガラ声で本人と声のトーンも違う気もする。さんまとは公私共々仲良くなったばかりだったということもあり、即座にイタズラ電話だと思った私はガチャンと電話を切った。

 翌週の日曜の午後にもまた電話が鳴った。

「おう、さんまや。明石家さんまやで……」

 しかしやはり電話の声が嗄れ過ぎている気がした。間違いなく先週と同じ人間だ。これはイタズラだ。また電話を切った。いくらさんまと急速に交流を深めていたとはいえ、まさか自宅まで電話をかけてくるとは到底思えなかった。

 しかし、その十数年後、さんまの担当マネージャーと麹町の日本テレビの喫茶室でコーヒーを飲んで雑談をしている時のことである。ふと思い立ち、あの“明石家さんまを名乗る不可解な日曜の2回の電話”について聞いてみた。

「いや~。そういえば、もうずいぶん前に、編集で疲れて日曜日の午後寝ていたら、さんまさんを名乗るイタズラ電話が2回ほど、自宅にかかって来たんですよ」

「いや、吉川はん。それ本物ですよ」

「えっ!」

「本物です。あの頃、さんまさんが突然『あの日テレの吉川君というのがオモロイから自宅の電話番号調べておいて』と言うのでお教えしたら、その後『なんかおかしいねん。オイラが吉川君の家に電話すると本人が出ても、いつもすぐ切られんねん』と言うてはりました」

 明石家さんまは大物すぎて容易に近づけない存在だったが、親しくなって偶然とはいえ好感をもたれると急に“人懐こく”なる。何度も書くが明石家さんまは器が大きい人物だったが意外に繊細で優しい人でもある。

 たぶん、オフの日曜に寂しがり屋の明石家さんまは私と誰かとの夕食会でも開きたくなり、「隙ありお間抜け男」の私を誘ってくれたのかもしれない。とするとあの時はとても申し訳なかったと思う。

 そして、さらに付け加えると、最近この「明石家さんまからの疑惑の電話事件」について本書に書くために妻と話していたらこんな証言があったのである。