インフレに勝つ資産運用と家族円満の相続対策
株価や不動産など資産価格が上昇する中で、どのように資産運用に向き合い、相続対策をどう講じるべきか――。本特集では有識者のアドバイスを基に、これからの資産運用と相続対策のあり方について考える。
【資産運用特集】
値動きの異なる資産を組み合わせたリスクコントロールが欠かせない
ファイナンシャルプランナー 藤川太氏に聞く
代表取締役社長
ファイナンシャルプランナー(CFP®)
藤川 太氏
10月21日に高市早苗自民党総裁が首相に就任し、10月27日には史上初となる日経平均株価5万円台の大台に乗せた。同時期に米国株式市場も史上最高値を更新したものの、11月に入ると日米ともに調整局面を迎えた。雇用関連の指標が低調なことから米景気の減速懸念はくすぶり、この先、株式市場がさらに大きく調整する可能性もある。
ファイナンシャルプランナーの藤川太氏は「積立投資を実践している方であれば下落局面は安く買えるチャンスといえます。とはいえ、現在の日米の株式市場には過熱感があり、下落幅が大きいと耐えきれずに、投資をやめてしまう人も一定数出てくるでしょう」と懸念する。
特に新NISA(少額投資非課税制度)で投資を始めた層は、米国株式を主な投資対象とする投資信託に、運用資産のすべてを振り向けているケースが少なくない。その場合は、過度に運用リスクを取っている可能性があることは認識しておきたい。また、定年間近など資産形成の出口を意識するべきタイミングで、株価暴落という憂き目にあうことは避けたい。そう考えると、株価が高値圏にあるうちに運用資金の一部を安全資産に避難させておくことを検討してもいいだろう。
安全資産の選択肢としては、「金利のある世界」の復活で魅力が高まっている定期預金や個人向け国債がある。また、一時払いの個人年金保険という選択肢もある。まとまった資金を一時払い保険料として支払い、年金として受け取る仕組みだ。年金支払期間中も運用を継続しつつ、下落相場でも減らない仕組みを備えた個人年金などは有力な受け皿となるはずだ。
とはいえ、足元のインフレ環境は、この先も継続する可能性が高く、株式市場の過熱感が高まっているとはいえ、資産の価値を守るためにも運用は継続したい。「数ある運用商品の中でも、やはり株式を保有することがインフレ対策としては最も効果的です。ただし、株式100%ではリスクが過度になるので、リスクをコントロールするために株式とは値動きの異なる資産を組み合わせることが重要です」と藤川氏は改めて分散投資の重要性を強調する。
【相続特集】
遺産分割、納税資金、節税の順番で検討する
国税庁が2024年12月に発表した「令和5年分における相続税の申告事績の概要」によると、23年の被相続人数(死亡者数)は157万6016人で、そのうちの相続税の申告書の提出に係る被相続人数は、15万5740人だった。死亡者の約10人に1人が相続税の課税対象者というわけだ。
課税対象者の数は近年、増加傾向にあり、藤川氏の元に寄せられる相続の相談件数も増えている。「最近の傾向として、相続時精算課税制度に関心を持つ個人が増えています」と話す。関心が高まる背景には、年110万円以内の贈与なら非課税になる基礎控除が新設され、使い勝手が向上したことがある。一方、暦年贈与は課税対象となる生前贈与の加算期間が3年から7年に延長されて負担増になった。
昨今の株高・不動産価格の高騰により、相続時の課税負担が想像以上に増える人もいるだろう。相続への備えは早めの対策が肝心だが、節税から対策を講じるのは間違い。「まずは誰にどの財産を相続するかという遺産分割から検討し、次に納税資金の確保、節税対策は必要な人だけが最終段階で検討するべき要件といえるでしょう」と藤川氏はアドバイスする。
遺産分割の際には相続が「争族」にならないよう注意が必要だ。そのためにも被相続人は、相続に対する考えや希望を生前から家族と共有し、その思いを記した遺言書を作成しておきたい。遺贈・寄付を行う場合にも遺言書は欠かせない。遺贈・寄付とは、遺言書をもとに死後、公益法人やNPO法人、公共団体などに財産を寄付すること。相続人がいない場合、財産は国庫に返納されてしまう。「当社の相談者の中でも、特に単身世帯やお子さまのいないご夫婦などは、寄付・遺贈への関心が高い」と藤川氏。寄付・遺贈された財産には相続税がかからない。社会貢献を果たしながら、節税メリットを期待できる手段として検討してはどうだろう。
また、暦年贈与や相続時精算課税など、生前贈与の仕組みが充実しているからと、積極的に行った結果、自身の老後資金が足りなくなるのは本末転倒だ。老後の生活資金はもちろん、要介護状態になった時の費用なども手元に準備しておかなければ、家族に負担をかけることにもなりかねない。生命保険の中には、死亡だけなく要介護状態になった時の費用にも同時に備えられる商品もあるので検討してもいいだろう。