T氏が続けるところによると、2024年12月以前は大麻がもっとも人気がある薬物で、その他の覚醒剤やコカイン、MDMAなどの売買は著しく減っていたという。

 これはこの地域だけの現象ではない。ここ数年は日本全国で覚醒剤の人気が著しく下がり、大麻の使用が増加していた。コロナで輸入が減った時期でも覚醒剤はダブつき、ここ数年は値崩れを起こしていた。

 大麻が蔓延したのには、二つの大きな理由がある。

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 一つは、大麻は自分で栽培できるという点だ。ネットを使えば農耕セットを安く買うことができるし、大麻草の栽培方法を細かく知ることも可能だ。そのため、素人が栽培して自家消費することはもちろん、それを売りさばくこともできた。

 そしてもう一つが、使用自体が罪に問われなかったことである。

 今まで使用罪がなかった大麻は、ガサ入れの際などにバレないように捨てる、トイレに流すなどをすれば罪に問われることはなかった。それが大麻特有のメリットとなっていた。

 だが、2024年12月から、大麻に使用罪が追加された。これ以降、覚醒剤やコカインなどと同様に尿検査をして、陽性反応が出れば逮捕されるように罰則が強化された。

写真はイメージ ©getty

 大麻使用罪の刑罰は7年以下の懲役、営利目的の場合、情状によっては300万円以下の罰金を科せられる(麻薬取締法66条2第1、2項)。となると、コカインも麻薬及び向精神薬取締法違反で7年以下の懲役であり、双方のリスクは変わらない。リスク面における大麻の優位性は、ほぼなくなったと言っていい。そのため、使用罪が施行されてからは大麻の人気は一気に下降し、違法薬物愛好家は別の薬物へと戻っていくこととなったのである。

上野ではコカイン、浅草では覚醒剤が人気

 T氏は、もともとはある組織の関係者だったという。しかし、とある事情から組織を抜け、カタギとしての道を歩みながらも裏で売人をしているとのことだった。そんなT氏は、上野でコカインが流行している理由について、次のように語る。

「上野はコカインを愛好する在留外国人が多い。ベトナム人を中心とした東南アジア系だね。コカインは3、4日もすれば尿から反応が出なくなる。だから、より早く抜けるように、利尿剤などもセットで付ければ、みんな喜んで買っていくよ。大麻の抜けも同じくらいだと聞いているから、それだったら効き目がいいコカインに走る、というのはわからなくはない」

 一方で、浅草では上野と異なる薬物が流行っているという。

「上野はコカインだけど、浅草は覚醒剤の愛好者が多い感じがする。上野は組織の関係でシャブに手を付けてはいないというのもあるだろうけど。実際に俺らが扱っている浅草の覚醒剤は、埼玉経由の薬物が多いんじゃないか。俺を含め売人の多くが仕入れている仲卸は、埼玉のある地域で焚いて精製している人間から覚醒剤を買っているね」

 覚醒剤も扱っているというT氏。受け渡しの際には、特殊な方法を採用しているそうだ。

次の記事に続く 「取り分は運転手が2割で俺らが5割。残りの3割は…」カジノで借金漬けになったドライバーが運び屋になることも…売人たちが重宝する「覚醒剤タクシーの衝撃」