「とても危ぶまれる状態になりつつある」。デビュー70周年を迎える小林旭さん(87)が、日本人に本気の“喝”を入れる。「“本当の”戦争を知らない」と感じるのは一体なぜ——。

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本当の戦争を知らない

 いまはクレイジーな奴が出てきて政党のトップになるような時代だからね。コスプレしてバンド引き連れて人集めしているんだから、政治家じゃない。政治家というのは熱弁を振るって、魂が人を揺する、そういう魅力があるから自分たちの生活権を預けようという気にもなる。いまは人集めしておもねって、隙あらば票数を稼ごうとするろくでなしばかりだもんな。俺も知っている詐欺師の塊みたいな歌手も政治家になったけど、一体何ができるんだ。悪さはできたって、良さはできないよ。

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小林旭さんは2026年にデビュー70周年を迎えるが、俳優の仕事を始めたのは1955年。「70年は、本来は今年なんだ」と小林さんは語っている Ⓒ文藝春秋

 最近はアメリカという国について考えているよ。トランプがあれだけ好き勝手言って、世界がそれを認めちゃうんだから。アメリカという国はすごいなということだけれども、それじゃあ一体、誰がすごいって決めたんだ? 俺なんかに言わせれば、幌馬車引いて鉄砲撃って、トウモロコシ食ってた人間じゃねえかと。日本人の方がコメ作って何して遥かに生活圏ではクラスが上じゃない、と。英国や日本にはロイヤルのシンボライズされたものがあるけれど、アメリカ人というものの源泉はどこから出てきたのか。

 できるものならば、そのアメリカを牛耳って、アメリカ以上に有名になって騒がれるような魅力のあるものになりたいと思ったことが、若い頃にはあったんだ。1961年、在米日系人が買ってくれたレコードの、7万ドル以上ある印税を受け取りにハリウッドに渡った時には、フランク・シナトラだ、ジョン・ウェインだに相手してもらって、みんなからちやほやされてね。天下取ったみたいな気になった瞬間も無きにしも非ずだった。けども、よくよく考えてみると、そんなものは屁みたいなものだな。屁のつっぱりにもならん。あれだけ汚いことをやってもアメリカという国が認められてきたのはなぜか。経済力か? 軍事力か? 結局突き詰められないんだよ。手が届かないんだ。みんな、ただ見ているだけだよ。