コンビニで中学生に……
有働 解任後は、読売から社友や医療共済の資格など次々と剥奪され、同僚からも裏切られ、お金もないから安い団地に引っ越したと書かれていますね。巨人軍の代表だったから、てっきり港区の高級マンションにでも住んでいるのかと思っていました。
清武 まさか。古い団地で、当時も今も家の中はぐちゃぐちゃでね。旧友からは「こんなところに住んでいるのか?」なんて驚かれましたよ。コンビニに行けば、中学生の坊主から「あっ、清武だ!」なんて指差されて、腹が立って仕方なかった。「あんたみたいになりたくない」とか「立派だけど、そばにいたくはない」とも言われました。元同僚や匿名多数に暗がりで叩かれて、罰を受けている感覚でした。
有働 改めて聞きますけど、同じ状況になっても、もう一度、「清武の乱」をやりますか?
清武 やりますよ。
有働 同じ苦しみを味わっても?
清武 ええ。喜んでやるわけじゃないです。でも、やります。
昨年末に98歳で亡くなった渡邉さんは、ネットやスマホを使おうとしなかったし、ろくにパソコンをいじったこともなかった。そんな人が情報産業の頂点にいて、「メディアの帝王」と呼ばれている。そして読売の社論を牛耳り、周囲の意見を聞き入れずに死ぬまで「主筆」として、あの部屋に居座り続けた。それはどう考えてもおかしいですよ。
有働 いやぁ、でも、私だったら、例えばNHKに刃向かって、会見を開くとかできない。そんなに強くなれないですね。
清武 別に僕は強くないですよ。でもね、自分が「おかしい」と思ったことを渡邉さんが死んだ後に言っても意味がないですよ。彼が元気なうちに、はっきり「おかしい」と言わないと。そうでなければ、自分の信じてきた道が曲がってしまう。人間が廃れてしまうと思ったんですね。棺桶に片足を突っ込んだ時に「しまった!」って後悔するのは嫌でしょう。たとえ負けようが不平があったら言うべき。「戦うなら勝たなきゃ」なんて言う人は、独裁を許してしまう人だと思うな。
※この対談の全文(約8800字)は月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(清武英利×有働由美子「棺桶の中で『書けばよかった』と後悔したくない」)。全文では、下記の内容をお読みいただけます。
■連載「有働由美子のマイフェアパーソン」
第77回 今田美桜(俳優)
第78回 小林旭(俳優・歌手)
第79回 塩田武士(作家)
第80回 タサン志麻(家政婦)
第81回 上戸彩(俳優)
第82回 今回はこちら



