『KILL 超覚醒』

 次も「こんなの××じゃない!」系の、意外性ある一本。今度は「こんなのインド映画じゃない!」だ。

 インド製のアクション映画なのだが、歌わないし踊らないし、上映時間も短い。ワイヤーやCGや爆発を使った超人的なアクションもない。ひたすらナイフと拳による肉弾アクションを痛々しいまでに続ける泥臭さは、東南アジアや一昔前の香港や韓国の映画を彷彿とさせるものがある。

 物語は、一台の寝台特急列車の車内だけで展開する。強盗団が車内に乱入し、乗客たちから金品を強奪しようとするところから、物語は始まる。そこには大富豪の一家も乗り合わせていた。その一家の娘にプロポーズすべく、彼女の恋人も。そして、この男が特殊部隊に属する最強の戦士だったことで、強盗の目論見は外れていく。

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『KILL 超覚醒』©2024 BY DHARMA PRODUCTIONS PVT.LTD.& SIKHYA ENTERTAINMENT PVT.LTD.

 特急に乗り込む暴力集団と、そこにたまたま居合わせた最強の男――というシチュエーションだと、スティーブン・セガール主演『暴走特急』が思い浮かぶ。ただ、セガールは圧倒的な強さで敵を制圧したのに対して、本作はそうではない。強盗団のリーダーの息子がサイコパスで凶暴な上に戦闘能力もズル賢さも長けている。そのため、主人公も何度も追い詰められて傷を負うし、彼の周囲にいる思わぬ人物たちも命を落としてしまう。

 そのため、全編を通して誰がやられるかわからない緊迫感が貫くことになり、閉鎖空間での限られた動きしかできない中でのアクション、痛みの伝わる生々しい格闘戦とあいまって、暴力の迫力に満ちた作品となっている。

 注目は、強盗団のリーダー。本当は乗客を傷つけることなく計画を遂行するつもりが、暴力の連鎖により収拾がつかなくなる。挙句に、最強の主人公と凶暴な息子の狭間で絶えず困った表情を浮かべ続け、悪党なのに可哀相に思えてくる。それでいて、最も残虐な最期を遂げるのだから、いたたまれない。

 容赦ない暴力描写に浸れる一本だ。

『KILL 超覚醒』

監督・脚本:ニキル・ナゲシュ・バート/出演:ラクシャ、ターニャ・マニクタラ、ラガヴ・ジュヤル/2024年/インド/105分/配給:松竹/© 2024 BY DHARMA PRODUCTIONS PVT. LTD. & SIKHYA ENTERTAINMENT PVT. LTD./11月14日(金)ロードショー