『ジェイ・ケリー』
最後に紹介するのは、打って変わって「これぞハリウッド映画」という一本。
近年のハリウッド映画は尖った変化球が多く、そうなると人間愛をストレートに謳い上げるようなヒューマニズムあふれる【古き良き】タイプの作品が恋しくなってくる。本作は、まさにそんな一本。
主人公は映画スターのジェイ・ケリー(ジョージ・クルーニー)。ハリウッドで成功を掴んでいたが、その過程ではさまざまな人間を裏切り、傷つけ、今は家族との関係も上手くいっていない。キャリアとしても壁にぶつかっている。孤独と葛藤を抱える中、トスカーナの映画祭で功労賞を受賞することになったケリーは、スタッフたちとともにパリから電車でトスカーナに向かうことにする。
問題を抱えた人間が旅先でさまざまなトラブルに遭い、それらを乗り越えていきながら人生で大切なことに気づく――という展開は、【古き良き】ハリウッド映画の典型。本作は、それを堂々とやってのけているのが嬉しい。
一人でいる時は感傷に浸っているが、人前に出ると途端に「スター」の顔になって誰をも魅了してしまう。そんな人間味とカリスマ性を併せ持つスター像にジョージ・クルーニーが完璧にハマッている。不愉快に思えるようなスターの傲慢さや不遜も、チャーミングな笑顔一つで許されてしまう。そんな役柄を説得力をもって演じられるのは、真のスターのみ。改めて、ジョージ・クルーニーの凄みを実感できる。
さらに素晴らしいのは、彼に振り回されるマネージャーを演じるアダム・サンドラー。人生の全てを賭けてケリーに尽くしていながら、「そこにいて当然」という扱いしか受けない。そんな男の健気さと切なさを巧みに演じていた。彼の真心にケリーが気づけるのかが物語の重要な核になっているため、実質的に「ヒロイン」といえる立ち位置。それだけに、終盤になるにつれて、このヒゲ面のオジサンがたまらなく可愛らしく見えてきた。
『ジェイ・ケリー』
監督:ノア・バームバック/出演:ジョージ・クルーニー、アダム・サンドラー、ローラ・ダーン/2025年/アメリカ/131分/一部劇場にて11月21日(金)より公開/Netflixにて12月5(金)より独占配信
