「足の踏み場がないくらい色んなものが散乱している」実家で30年以上引きこもる長男の現在
――長男さんは現在、どういった生活をされているのでしょう。
宮川 両親がいなくなったので、実家で1人で暮らしています。仕事をしていたときの貯金や両親の遺してくれたお金で生活をしているのですが、僕や次男が様子を見に行くとやっぱりいつも、足の踏み場がないくらい色んなものが散乱しているんですよね。
でも、完全に家から出られないわけではなく、近所のスーパーに買い物に行くとか、そういったことはできるんですよ。
リサイクルショップで値引きになっている何かのパンフレットや漫画、デジカメとかを買っていて。思わず「デジカメで何を撮るんだよ」とツッコんだら「そりゃ、景色とかを撮るんだわ」ってちょっとはにかみながら言うんです。
そういう長男の姿を見ていると、小さな消費を続けることで、なんとか世の中と繋がり続けようとしているように思えるんですよね。
よくわかんないおもちゃなんかを買っていて、僕が妻と子どもたちと一緒に実家に寄ったときに渡してくれたこともありました。
「自分以外が長男を悪く言っていると…」長男に対する複雑な感情
――パートナーやお子さんたちには、長男さんのことをどう伝えていたのですか?
宮川 特に隠していたわけでもなく、かと言って改まって「実はこういう兄がいて……」という話をしたわけでもないんです。
例えばわかりやすく病名が付いていたり、何かしらの診断が下りて薬も飲んでいて、という状態なら説明したと思うんですけど。なんなら家に来たら長男の挙動不審さとか、普通じゃない感じってすぐにわかるので、妻も子どもたちもそれを見て察知すると言いますか。
――漫画の中で、娘さんが「私、あの伯父さん嫌い」と言ったのに対して、主人公の道雄が叱った描写がありましたが、あれはどういった気持ちで描いたのですか。
宮川 自分でも不思議なんですけど、僕は長男のことがめちゃくちゃ嫌いで、いつも「何でこんなに気を遣わないといけないんだ」と思っていたし、娘の前で悪口を言ったりもするんですよ。でも、自分以外が長男を悪く言っているのを聞くと「おい!」と思う自分もいて。
――あのシーンは、長男さんに対する宮川さんの複雑な感情が伝わってきました。
宮川 漫画『タッチ』の南ちゃんが、同級生たちから達也のことを悪く言われて怒るじゃないですか。「タッちゃんの悪口を言っていいのは南だけなんだから」みたいな。ああいう感じです。
撮影=細田忠/文藝春秋
