日本に約146万人(内閣府の調査より)いると言われている「引きこもり」。漫画家・宮川サトシさん(47)は、家族の中に“引きこもり当事者”を抱えている。15歳上の長男が、両親が他界し、ゴミ屋敷のように荒廃した実家で、30年以上も孤独な“引きこもり生活”を送っているという。
そんな兄のことを描いた宮川さんの最新作『名前のない病気』(小学館)が話題になっている。宮川さんの長男はなぜ引きこもりになってしまったのか。家族は引きこもりの長男と、どのように接してきたのか。どうして長男のことを漫画にしようと思ったのか。宮川さんに話を聞いた。(全2回の2回目/1回目から読む)
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長男に対して「せめて働けよ」「関わりたくない」と思っていたが…
――宮川さんは、30年以上引きこもっている長男さんのことをどのように思っているのですか?
宮川サトシさん(以下、宮川) 昔はやっぱり憎しみと言いますか、自分が学生だったり受験勉強をしていた頃は「せめて働けよ」と思ったりはしていたんですよね。
特に母親が亡くなって以降は「関わりたくない」というか「何を言っても変わらないし、この人について考えていても意味がないな」と興味や関心がなくなっていって。自分の性格上、憎しみが持続しないというのもあるんですけど。
でも、長男のことを漫画で描くことでこちらが変化していっているんですよ、長男のことを知ろうとするというか。
――長男さんのことを知ろうとする?
宮川 今までやられてきたこととか、こちらが相手に対してしてきたことの蓄積で「関わりたくない」という目で見ていたのが、「この人をちゃんと漫画で描こう」と思うことで自分の受け取り方が変わってきて、自然に言葉が丸くなったり、衝突が減ったりしてコミュニケーションが少しずつ取れるようになりました。
