「ずっと家族扱いしていなかった」長男の漫画を描こうと思った“きっかけ”

――映画化もされた『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』をはじめ、宮川さんの過去のエッセイ漫画には長男さんが一切登場していませんでしたが、なぜ今、長男さんのことを漫画で描こうと思ったのですか?

宮川 きっかけは、担当編集の方から「そろそろお兄さんのことを描いてみませんか」と提案されたことだったんですよね。最初は「いやいや」なんて思っていたんです。

 僕にとって、引きこもりの家族がいることは特にめずらしいことではないと思っていたし、そんな普通のことを描いても誰も読まないし興味がないだろうと。

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 でも僕自身、ずっと長男を家族扱いしていなかったこと、12年間ずっと漫画に出さなかったことにはすごく罪悪感を抱えていて。

――長男さんに怪我をさせてしまった罪悪感を抱えているとおっしゃっていましたね。

宮川 それも大きいですけど、それ以上に、長男の存在を隠していたことが最大の罪悪感な気がします。

「新聞に載ってたな」自分が漫画に登場しないことを長男はどう思っていたのか

――長男さんは、宮川さんが家族の漫画を描いていることを知っているのですか?

宮川 知っています。ゴミ部屋の中に『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』が転がっていたりしたので。かと言って、それについて何か感想があるわけでもないし、どう思っているかはわかりません。

 一度「尾田栄一郎って知ってるか? 4億部売れてるんやってなぁ、おまはんの漫画はあれくらい売れてんのか?」とか言われましたけど(笑)。

 

――自分が漫画に登場しないことを長男さんがどう思っていたのか、聞いたことはあるのですか?

宮川 それが、特に何も言われたことがないんですよね。お互い触れないまま、ここまで来てしまっているというか。漫画にいちゃもんを付けてきたり、僕に「新聞に載ってたな」とか言ってきたりはするんですけど、「なんでわしのことを描かないんだ」と聞かれたこともないので、長男がどう受け止めているかは分からないです。

――『名前のない病気』で長男さんのことを漫画に描くことに、葛藤などはあったのでしょうか。

宮川 長男への罪悪感と向き合う作業でもありますし、本当のことを描くからには、自分のこともちゃんと、美化したりせずに悪く描く覚悟が必要だと思っているのでしんどい部分はありました。「こんなことを描いてごめんなさい」と思うこともありますし。